マーケティング

2025.07.14 07:45

消費者が「心が動く」体験にお金を払う意味 心を掴むビジネス戦略

Getty Images

わたしたちは日々、さまざまな形で「心が動く体験」に魅了されています。

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たとえば、ホラー映画。

怖くて思わず目を背けたくなるのに、なぜか観てしまう。

あのドキドキやヒヤヒヤといった心の揺れこそが、「面白さ」の正体だと感じる人は少なくありません。それは、あとから「よかった」「また味わいたい」と思える種類の「快」なのです。

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泣けるコンテンツも、怖い話も、もちろん笑える作品も。

どれも「気持ちが動く」という価値を提供してくれるからこそ、ほしくなり、消費されていくのです。

感情設計は、あらゆるビジネスの武器になる

感情を動かす力は、エンタメだけに宿るものではありません。

たとえば、新商品がなかなか売れないとき。サービスの良さをどれだけ説明しても顧客に響かないとき。製品の広告にいま一つ効果が出ないとき。

それは機能が足りないのではなく、感情が動いていないからかもしれません。

顧客の感情を動かすには、「この商品を手に入れることでいい気持ちになれる」と思わせることが大切です。

たとえばよくある保険のCM。

「日常の幸せ」への共感から始まり、「それを失うかもしれない」という喪失の可能性を描き、最後に「でも備えがあれば安心だ」という回復に着地する。そんな感情の流れが設計されています。

レトロな定食屋さんや、昔ながらのパッケージで売られる復刻版のお菓子には、不思議とほっとさせてくれる力があります。

味やデザインそのもの以上に、昔の記憶を思い出させてくれることが、私たちを安心させます。

心をなだめてくれる懐かしさを買っているのです。

少し値段が高い商品でも、自分へのご褒美だと思ってもらえれば購買されやすくなります。

「一度は諦めていたことが、今なら叶う」

「昔は憧れだったものが、今の自分なら似合うようになった」

そんな語り口に変えるだけで、商品の価値が個人の記憶や感情とつながり始めます。

小さな夢がもう一度叶うような、そんな喜びを想像し始めるのです。

また、季節の変わり目や卒業・就職といった節目には、「変わっていくもの」や「取り戻せない時間」が自然と意識されます。

こうしたタイミングでは、前に進む勇気や、名残のせつなさといった感情に寄り添う表現のほうが、深く記憶に残ります。

このように、「どんな気持ちになれる体験なのか」を描くことが、人の行動を促す力になるのです。

ポイントは、悲しませることではなく、気持ちが動いた実感を与えること。

それは、嬉しさでも、懐かしさでも、悔しさでもいい。感情の振れ幅こそが、商品やサービスの印象を記憶に残るものへと変えていきます。

それこそが、あらゆるビジネスの武器になるのです。

文=石津智大/関西大学文学部心理学専修教授

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