わたしたちは日々、さまざまな形で「心が動く体験」に魅了されています。
たとえば、ホラー映画。
怖くて思わず目を背けたくなるのに、なぜか観てしまう。
あのドキドキやヒヤヒヤといった心の揺れこそが、「面白さ」の正体だと感じる人は少なくありません。それは、あとから「よかった」「また味わいたい」と思える種類の「快」なのです。
泣けるコンテンツも、怖い話も、もちろん笑える作品も。
どれも「気持ちが動く」という価値を提供してくれるからこそ、ほしくなり、消費されていくのです。
感情設計は、あらゆるビジネスの武器になる
感情を動かす力は、エンタメだけに宿るものではありません。
たとえば、新商品がなかなか売れないとき。サービスの良さをどれだけ説明しても顧客に響かないとき。製品の広告にいま一つ効果が出ないとき。
それは機能が足りないのではなく、感情が動いていないからかもしれません。
顧客の感情を動かすには、「この商品を手に入れることでいい気持ちになれる」と思わせることが大切です。
たとえばよくある保険のCM。
「日常の幸せ」への共感から始まり、「それを失うかもしれない」という喪失の可能性を描き、最後に「でも備えがあれば安心だ」という回復に着地する。そんな感情の流れが設計されています。
レトロな定食屋さんや、昔ながらのパッケージで売られる復刻版のお菓子には、不思議とほっとさせてくれる力があります。
味やデザインそのもの以上に、昔の記憶を思い出させてくれることが、私たちを安心させます。
心をなだめてくれる懐かしさを買っているのです。
少し値段が高い商品でも、自分へのご褒美だと思ってもらえれば購買されやすくなります。
「一度は諦めていたことが、今なら叶う」
「昔は憧れだったものが、今の自分なら似合うようになった」
そんな語り口に変えるだけで、商品の価値が個人の記憶や感情とつながり始めます。
小さな夢がもう一度叶うような、そんな喜びを想像し始めるのです。
また、季節の変わり目や卒業・就職といった節目には、「変わっていくもの」や「取り戻せない時間」が自然と意識されます。
こうしたタイミングでは、前に進む勇気や、名残のせつなさといった感情に寄り添う表現のほうが、深く記憶に残ります。
このように、「どんな気持ちになれる体験なのか」を描くことが、人の行動を促す力になるのです。
ポイントは、悲しませることではなく、気持ちが動いた実感を与えること。
それは、嬉しさでも、懐かしさでも、悔しさでもいい。感情の振れ幅こそが、商品やサービスの印象を記憶に残るものへと変えていきます。
それこそが、あらゆるビジネスの武器になるのです。



