マーケティング

2025.07.11 07:45

「泣ける」体験の科学、感情に価値を見出すビジネス戦略

Getty Images

けれど、それだけで終わりません。

advertisement

扁桃体と同時に、「感情の意味づけ」や「情動の調整・抑制」に深く関わる前部帯状皮質(ACC)という領域が活性化していたのです。

つまり、泣ける物語を観ているとき、わたしたちの脳は「ただ悲しみを感じている」のではなく、「その感情をどう捉えるか」「どう悲しみを乗り越えるか」という整理をしている、と考えられます。

泣いたあとに少し気持ちが落ち着いたり、前向きになったりするのは、こうした脳の働きによって、「悲しみの出口」がちゃんと用意されるからなのだと思います。

advertisement

このように、感情を味わいきる→意味づけする→乗り越えるという流れがあるからこそ、人は「悲しい体験」の中で、「ああ、泣けてよかった」「すっきりした」と感じることができるのです。

「心が動く」は快になる

そしてもう一つ、見逃せないことがあります。

それは、「泣ける」ときに感じている感情は、単なる悲しみではないということです。

このテーマについて、わたしたちは一つの実験を行いました。

「泣ける」と言われる短い動画を300本以上集めて、約800人の被験者に視聴してもらい、それぞれの映像に対して「どんな感情を抱いたか?」を評価してもらったのです。

使った感情ラベルは全部で34種類。「悲しみ」「感動」「美しさ」「喜び」など、日常的な言葉で分類されたものです。

結果は一見、想定通りでした。

多くの人が「悲しみ」というラベルを選んだのです。

でも、それは本当に「悲しかった」のでしょうか?

「泣ける」と言われる動画だったから、「悲しい」という言葉を選びやすくなっていた可能性はないだろうか──そんな疑問が、ふと頭をよぎりました。

次ページ > 感情は「そう感じるべき」というラベルの影響を受ける

文=石津智大/関西大学文学部心理学専修教授

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事