けれど、それだけで終わりません。
扁桃体と同時に、「感情の意味づけ」や「情動の調整・抑制」に深く関わる前部帯状皮質(ACC)という領域が活性化していたのです。
つまり、泣ける物語を観ているとき、わたしたちの脳は「ただ悲しみを感じている」のではなく、「その感情をどう捉えるか」「どう悲しみを乗り越えるか」という整理をしている、と考えられます。
泣いたあとに少し気持ちが落ち着いたり、前向きになったりするのは、こうした脳の働きによって、「悲しみの出口」がちゃんと用意されるからなのだと思います。
このように、感情を味わいきる→意味づけする→乗り越えるという流れがあるからこそ、人は「悲しい体験」の中で、「ああ、泣けてよかった」「すっきりした」と感じることができるのです。
「心が動く」は快になる
そしてもう一つ、見逃せないことがあります。
それは、「泣ける」ときに感じている感情は、単なる悲しみではないということです。
このテーマについて、わたしたちは一つの実験を行いました。
「泣ける」と言われる短い動画を300本以上集めて、約800人の被験者に視聴してもらい、それぞれの映像に対して「どんな感情を抱いたか?」を評価してもらったのです。
使った感情ラベルは全部で34種類。「悲しみ」「感動」「美しさ」「喜び」など、日常的な言葉で分類されたものです。
結果は一見、想定通りでした。
多くの人が「悲しみ」というラベルを選んだのです。
でも、それは本当に「悲しかった」のでしょうか?
「泣ける」と言われる動画だったから、「悲しい」という言葉を選びやすくなっていた可能性はないだろうか──そんな疑問が、ふと頭をよぎりました。


