サイエンス

2025.07.04 18:00

アフリカから北欧までノンストップ、60時間飛び続ける渡り鳥

Shutterstock.com

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ヨーロッパジシギ(学名:Gallinago media)は、スタミナと持久力のチャンピオンだ。この渡り鳥は、サハラ以南のアフリカで越冬し、北欧やロシア北西部で夏を過ごす。そして、住処を移動するにあたって、ヨーロッパジシギは少しも時間を無駄にしない。これほどの長旅を、ときにはわずか60時間で完遂するのだ。

これがどれだけ驚異的な数字であるかを実感してもらうために、少し補足しよう。いま、人間であるあなたは中央アフリカにいて、目的地のスウェーデン北中部に、できるだけ早く到達したい。考えられる手段の一つは、まずバスか車で、中央アフリカ共和国のバンギ・メポコ国際空港まで移動すること。そこでエチオピア航空の飛行機に搭乗し、アディスアベバでの乗り継ぎを経て、ストックホルムに着陸する。

ここまでですでに、運がよくても丸1日ほどかかる。最終目的地へは、さらにストックホルムからスウェーデン北部まで飛行機で移動し、空港から車かバスで向かわなくてはならない。現実的に考えて、最低でもほぼ2日は必要だ。

では、ヨーロッパジシギの旅はどんなものだろう? 彼らは直線ルートで、昼夜を問わず、最高時速100km弱で飛び続ける。中継地に立ち寄るどころか、給水休憩すらとらない。条件次第だが、到着までの時間は60~90時間。つまり、現代の交通手段を自由に使える人間の(フライトのキャンセルや遅延を考慮した)タイムを、おそらく10~20%下回って勝利を収めるのだ。驚愕というほかない。

意外ではないが科学者たちは、ヨーロッパジシギがどうしてこれほど効率的な渡りができるのかという研究に、かなりの年月を費やしてきた。そこから明らかになった、この鳥がこれほどの長距離をこれほど高速で移動できる科学的理由を、以下に3つの観点から解説しよう。

1. 極限の高度まで上昇することで、体を冷やしオーバーヒートを防ぐ

ヨーロッパジシギの、ずば抜けて効率的な渡りの詳細を見ていく前に、この鳥自体のことを知っておこう。ヨーロッパジシギはずんぐりした中型の渉禽(シギ・チドリ類)で、褐色、黒、白の複雑な模様が入った羽に覆われ、草原や湿地でのカムフラージュに長けている。

オスはメスよりもやや小柄で、高速の羽ばたきや、トリルと呼ばれる小刻みなさえずりを組み合わせたドラマチックな求愛ディスプレイで知られる。ドバトと同じくらいの比較的コンパクトな身体でありながら、この鳥は、動物界きっての極限的な耐久力をもつアスリートだ。

ヨーロッパジシギの飛翔への適応のなかで、とりわけ驚異的なのが、日中の渡りの際に飛行高度を上げる能力だ。個体に記録装置を装着した研究によれば、ヨーロッパジシギはしばしば高度6000m以上で飛行しており、ある個体は高度8500mという、非帆翔性の渡り鳥としては史上最高レベルの記録を残した。

なぜ、そこまで極限の高度を飛ぶのだろう? 答えは体温調節にある。日中に低高度を飛ぶと、直射日光によるオーバーヒートのおそれがあるのだ。鳥には発汗能力がないため、口などからの気化冷却が頼りだが、ノンストップ飛行の間に脱水状態に陥るリスクがある。氷点下まで気温が下がるような、冷たい空気の層まで上昇することで、ヨーロッパジシギは自然に対流によって体を冷やし、水分を節約して、身体機能を最適に維持するのだ。

(余談:ヨーロッパジシギの飛行高度は鳥類界でトップクラスだが、最高記録保持者というわけではない。栄冠を手にしているのは、高度1万1300mで民間飛行機と衝突した鳥だ。詳しくはこちらの記事で)

次ページ > ヨーロッパジシギの昼夜の飛行高度サイクルは、リスク管理戦略を反映している

翻訳=的場知之/ガリレオ

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