和菓子と言えば「あんこ」。だが、あんこ好きは「つぶ餡」派と「こし餡」派に二分され、はるか昔から対立してきた。どちらかに決めるなんて不可能だと思うが、静岡県を中心に23店舗を構える和菓子店「田子の月」は、「あんこ分け目の頂上決戦」と銘打ち、大胆にもお客さんの投票を募り、その結果を発表した。
2025年6月7日から6月9日の3日間、田子の月の20店舗にて投票を行ったところ(有効投票数5861票)、つぶ餡が3779票、こし餡が2082票という結果となった。つぶ餡派が64パーセントを占め大勝した。

やっぱりね、という感じだろう。つぶ餡のほうが存在感が強い。こし餡はどこかお上品で、どら焼きやたい焼きに入っていたら食べた気がしないように思える。だが、こし餡が上品でつぶ餡は庶民的とは言い切れない。たしかに、こし餡は茹でた小豆を裏ごしして砂糖を加えて練り上げた、滑らかで美しい餡であり、和菓子の代名詞的存在の造形も色も芸術的な練り切りは、山芋や白隠元のこし餡で作られることから、雅な餡というイメージがあるが、本当のつぶ餡は、小豆の皮を破らないように丁寧に煮詰めた餡のことで、非常に高度な技術を要する高級な餡なのだ。
たい焼きには、じつは小豆をつぶして裏ごししない、つまり簡単に作れる「つぶし餡」がよく使われている。また、つぶ餡とこし餡をまぜた「小倉餡」というものもある。これは、手軽なつぶし餡とは逆の、2倍の手間がかかる餡となる。そんなわけで、つぶ餡かこし餡かの対決では、これらの中間的な存在を排除すべきなのだが、一般にはつぶし餡とつぶ餡が混同される傾向があり、それに半分はこし餡であるにもかかわらず小倉餡もつぶ餡に組み入れられたりする。
つぶがあればつぶ餡、それ以外はこし餡という勝負はフェアじゃない。今回の投票者は、そこをしっかり把握したうえで判断しているのか疑問だ。主催者である田子の月は、1952年創業の老舗だけに、そんなことは十分に承知のはずだが、この投票結果を受け、これまで試作を繰り返してきた「トースト用あんこ」をつぶ餡に決定したとのこと。残念ながら「トースト用あんこ」は7月3日から5日までの限定販売のため、この記事が公開されることには完売しているだろう。次に購入機会があれば予約をおすすめする。

「おはぎ、どっちにする? こし餡? つぶ餡?」なんて聞かれると、しばらく悩む。そのどっちつかずの楽しみが、まさに、つぶ餡、つぶし餡、こし餡、小倉餡と選びがたいグラデーションを形成するあんこの世界そのもの。決着を付けちゃっていいのかしらと思う。この問題にもし正解があるとするなら「こし餡」でも「つぶ餡」でもなく、「両方ちょうだい」だ。こし餡の「トースト用あんこ」も食べてみたい。



