65億円の内訳は「つくる」55億円、「伝える」10億円
サントリー大阪工場は、1919年創設の同社で現存する最古の工場だ。海運・水運の便が良く、全国各地の原料を運び入れやすいこの地で、100年以上にわたり洋酒づくりに挑戦し続けてきた。今回の65億円投資のうち55億円は「つくる」―即ち製造能力と品質向上への強化に注がれる。この金額からも、同社の本気度は明らかだ。
新設された「スピリッツ・リキュール工房」では、浸漬タンク8基の新設、蒸溜器4基の更新(機能向上)により、大阪工場全体の生産能力を2.6倍、ジンの原料酒は2倍に増強。従来1日1回しかできなかった蒸溜が2回可能になり、生産性が飛躍的に向上する。
美味品質向上への取り組みにも見るべきものがある。従来は蒸溜釜内で浸漬と蒸溜を同時に行っていたが、新たに設置された銀色の浸漬タンクにより、浸漬温度・時間・攪拌を精密に制御できるようになった。さらに工房内に開発担当部署のラボ併設&パイロットディスティラリー(小規模蒸溜施設)を新設し、開発と生産の連携を高めた。大量生産とクラフトの品質の両立という、一見矛盾するこのテーマへの挑戦ともいえる。
残る10億円は「伝える」部分への投資だ。これまで大阪工場は一般公開されていなかったが、2026年春の公開を目指し、蒸溜施設が見学可能なツアーを構築中だという。
滞在するうち、工場見学を超えた体験の場の創出を目指す姿勢が伝わってくる。例えば、原料の香りを自身で自由に体験できるスペースでは、ふだん嗅ぐ機会のないジュニパーベリーやアンジェリカといった伝統素材に加え、ROKUに使用される和素材の原型も体験でき、五感が刺激される。
9割が海外、ROKUが証明した「ジャパニーズ・クラフト」の可能性
ROKUの軌跡は、ジャパニーズクラフトジンの可能性を体現しているともいえそうだ。2017年の発売からわずか8年で世界第2位のプレミアムジンブランドへと駆け上がり、さらに販売の9割が海外、約60カ国で展開という数字は圧倒的だ。その秘密は、日本の四季を表現した6種の和素材にある。
100%日本産にこだわったこれらの和素材に、8種の伝統的ボタニカルと掛け合わせ、華やかさ、果実感、苦味という3つの香味をバランス良く設計している。


