東京・青山の中心に立つプラダ 青山店の5階。ヘルツォーク&ド・ムーロンが設計した建物のワンフロアが、いま、ひとつのアパートメントに変貌している。ソファ、ランプ、電話機など、どこか懐かしい日用品が並び、ピンクやターコイズを基調にしたキッチュな室内。だがその空間には、見過ごせない違和感が潜んでいる。
中央に据えられた6台の旧式テレビモニター。開かれたパネルからは、むき出しの配線や回路基板がのぞき、まるでレトロフューチャーな宇宙船のようだ。画面に映し出されるのは、映画監督ニコラス・ウィンディング・レフンと、ゲームクリエイター小島秀夫。二人の顔が映像として交互に現れ、思索的な対話を繰り広げる。
映画とゲームという、ふたつの異なるメディアで活動してきたレフンと小島が交わす言葉は、英語と日本語が入り混じり、字幕もなく空間に浮かぶ。その会話は明確なストーリーラインを持たず、鑑賞者は回遊しながら断片化された語りや沈黙、ノイズのような映像を手がかりに、ふたりの精神的軌道をたどっていく。
映像と空間、言語と沈黙、過去と未来。そうした要素が幾重にも折り重なり、訪れた者を不思議な没入感へと誘う。何かが語られているようで、何も語られていない。だが、その空白をどう埋めるかこそが、鑑賞者に託されている。この展示がもたらす特異な体験について、少し丁寧に紹介していきたい。
さりげないつながりのかたち
展示タイトル「SATELLITES(衛星たち)」は、地球のまわりを静かに回りながら、距離を保って交信を続ける人工衛星になぞらえてつけられた。レフンと小島が互いに無理に関わりすぎることなく、それでも思考を重ね、言葉を交わしつづける----そんな関係性を表している。
空間演出は、小島作品に通底する”孤立と接続”という主題を思わせる。ミッドセンチュリー調の家具が並ぶワンベッドルームの室内は、どこかで見たような家庭の風景だが、どこにも属さない異質さが漂う。部屋の各所には、ふたりの映像が流れるテレビやオブジェが点在し、そのなかを歩いていると、まるで未知の住人の生活を覗き込むような感覚すら覚える。



