展示空間の一角には、小部屋に仕立てられた更衣室のようなスペースがある。そこにはカセットプレーヤーが設置され、周囲には複数のカセットテープが山積みになっている。テープには、AIによって翻訳・再構成されたレフンと小島の対話や、映画のサウンドトラック、断片的な音素材が収録されており、ヘッドフォンで自由に聞くことができる。
この展示では、映画やゲームのように時間とともに進む作品を、空間そのものとして作り変えている。そこに決まった意味や答えはなく、来場者が断片的な映像や音声から、自分なりの物語や意味を見つけていく。
それはまるで、ひとりひとりが自分の感性で作品を”仕上げる”ような体験だ。展示を見ているというより、自分もその中で新しい何かを生み出しているような感覚になる。
これまでレフンは『ドライヴ』『ネオン・デーモン』など、静寂と色彩に満ちた映像世界を通じて人間の衝動を描いてきた。一方の小島は、シリーズ累計6千万本以上を売り上げた大ヒットゲームシリーズなどを通じて“つながり”をめぐる壮大な物語を創造。6月に発売されて話題になっている新作『DEATH STRANDING 2:ON THE BEACH』では、”海辺”を舞台に、分断された世界を再接続するというテーマがさらに拡張される。
ふたりが織りなすこの会話劇は、メディアの境界を越えるだけでなく「どのように経験が共有されうるか」という問いにも挑む。物質と非物質、存在と不在、アナログとデジタル。「SATELLITES」が浮かび上がらせるのは、それらの間にある、まだ言葉にならない領域だ。
レフンと小島の通信が交わされているあいだに、ぜひ耳を澄ませてみてほしい。展示は2025年8月25日まで開催されている。


