トドやオットセイなどの鰭脚(ヒレアシ)類は、水族館でいろいろな芸を見せてくれる。人の指示に従ってさまざまな動作ができるのはよっぽど頭がいいからだろうと思うが、トドの「人の動作の模倣」能力が厳格な検証により世界で初めて証明された。
兵庫県の城崎マリンワールドの人気者「ハマ」は、「日本一言葉を聞き分けるトド」として親しまれている。そのハマに協力してもらい、同水族館は麻布大学と共同で、2023年からトドの認知能力に関する研究を行っている。このほど、ハマが人の動きを正確に模倣できることを証明し、動物学専門雑誌『Animal Cognition』に論文が掲載された。
この研究の中心となったのは、「Do as I do」(私のマネをして)と呼ばれる模倣トレーニングだ。まずは、立ち上がる、舌を出す、首を横に振るという3つの基本動作を教えた。最初はジェスチャーやヒントを交えて学習させたが、やがてヒントなしでもトレーナーと同じ動作ができるようになった。これで「真似をする」というルールを覚えさせた。
3つの基本動作はすでにハマが覚えているもので、そこまでならトレーナーの特別な合図でその動きをする、真似をしているように見せかけた芸と見分けがつかない。本当に「真似をしている」とは言えない。そこで、教えていない動作も真似をするかを確かめた。すると、教えていないトレーナーの動作も真似をすることが示され、「真似をする」という概念を理解して、真似をしていることがわかった。
さらに難易度を上げて、動きを見せた後でトレーナーがパーティションの陰に隠れてから「真似をして」と命じると、その動作を見せることも確認できた。これは、トレーナーからの合図が伝わらない状態で、一度だけ見て覚えた動作を再現するという、人間が行う模倣に近い「真の模倣」と呼ばれる動作だ。また、「Do as I do」研究史上、もっとも厳密にコントロールされた実験のひとつとして評価された。これで、ハマの「真似」は本物であることが証明された。
人の動作を真似できるのは、高度な認知能力を持つ証だ。これまで、人の真似ができるのは、鯨類、大型類人猿、イヌ、ネコなどに限られるとされていたが、そこに新たに鰭脚類が加わることとなった。ハマの大手柄だ。



