食&酒

2025.07.06 15:15

パリの茶懐石、秋吉シェフが引き立てるクリスタル・ロゼの味わい

Champagne Louis Roederer・副社長兼醸造責任者ジャン・バティスト・レカイヨン氏(Jean-Baptiste Lécaillon、(右)茶懐石秋吉・亭主の秋吉雄一朗氏

クリスタル・ロゼと対比のペアリング

もう一つ、レカイヨン氏が「対比」のペアリングとして感銘を受けた料理が、「フエフキダイの焼き物」。炭火焼の魚に、プティポワ(グリーンピース)のソースとカラスミがかけられ、山椒のアクセントが加わった一品だ。

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「すべての構成要素に強さと個性があり、独立しています。それでいて全体として美味しい。各フレーバーが打ち上げ花火のようにダンスしているかのようで、驚きがあり、知的とも言える一品です。

こうした料理は、本来、まだ若く繊細なクリスタル・ロゼとは相いれないように思えるのですが、料理によりワインの構成要素が分解され、石灰質土壌の表現であるクリスタルが持つミネラル的な印象、塩味を伴う泡といった、(果実ではない)土壌に由来する側面が引き出され、調和していました」

クリスタル・ロゼ2015自体は、若々しく繊細ながらも、次から次へと飲み進めたくなる寛容さや親しみやすさが前面にあるのだが、この料理と合わせることで、ワインが本来持つ、複雑なフレーバーの層や力強い料理にも負けない芯の強さが引き出されていた。

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同じワインでも、あわせる料理がレンズや触媒のように働き、ワインの別の側面を引き出し、味わう者に新たな感動をもたらすのだ。

実は、筆者は以前パリのOECD本部に勤務しており、秋吉氏の料理を味わったことがあった。大使公邸で和食をいただくという貴重な機会は、海外で働く日本人として、その誇りや自覚を再確認するとともに、なかなか出会えない“美味しい和食”にほっとするひと時でもあった。

「これからも使命感を持って、日本の素晴らしさを伝えていき、日仏両国にとって良い存在となれるように研鑽したい」と秋吉氏。

秋吉氏とレストラン・ブランの佐藤氏をはじめ、海外で挑戦する料理人たちの活躍や成功は、分野を超えて私たちに勇気を与える。ワインは、人を繋げる飲み物とよく言われる。特に美味しい料理と共に味わう時間は、国境や国籍、年齢を超えて人を繋げ、かけがえのない思い出となる。何かと争いが懸念される世界情勢のなか、ワインが繋ぐ人と人との縁に改めて心動かされ、感謝する機会になった。

島 悠里の「ブドウ一粒に込められた思い~グローバル・ワイン講座」
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文=島 悠里、写真=島 悠里、茶懐石秋吉およびChampagne Louis Roederer提供

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