食&酒

2025.07.06 15:15

パリの茶懐石、秋吉シェフが引き立てるクリスタル・ロゼの味わい

Champagne Louis Roederer・副社長兼醸造責任者ジャン・バティスト・レカイヨン氏(Jean-Baptiste Lécaillon、(右)茶懐石秋吉・亭主の秋吉雄一朗氏

Champagne Louis Roederer・副社長兼醸造責任者ジャン・バティスト・レカイヨン氏(Jean-Baptiste Lécaillon、(右)茶懐石秋吉・亭主の秋吉雄一朗氏

パリ15区の閑静な一角を歩いていると、ふと和の佇まいが目に入ってくる。一歩踏み入れると、微かなお香のかおりを感じる静かな空間が広がり、「扉を開けたら、ここは日本なのですよ」とマダムの秋吉三鈴さんがにこやかに迎え入れてくれる。

ここは、茶懐石秋吉という本格和食のお店。亭主の秋吉雄一朗氏が、「日本の素晴らしさを伝えたい」という想いで2023年にオープンした。秋吉氏は茶懐石の老舗である京都の瓢亭で10年間働いた後、夫婦でフランスに渡り、OECD大使公邸の料理人を務めたのち、独立。オープン翌年にミシュランガイドで一つ星を獲得した。

Champagne Salonとパリのレストラン・ブラン佐藤氏が提案する料理を記した前回記事に続き、今回は、パリで茶懐石を供す秋吉氏が、最上のロゼ・シャンパーニュであるルイ・ロデレールの「クリスタル・ロゼ」の新ヴィンテージ2015に合わせて提案する料理を、醸造家の解説とともに、紹介したい。

クリスタル・ロゼの希少性

シャンパーニュの真のプレステージ・キュヴェには、独自のストーリーがある。例えばルイ・ロデレールの「クリスタル」は、ロシア皇帝アレクサンドル2世のためにつくられたという特別な歴史を持つ。

華やかなイメージのシャンパーニュだが、その本質は、最高品質の中身にある。クリスタルのための畑は、ルイ・ロデレールが所有する広大な畑のなかでも、シャンパーニュ地方特有の石灰質土壌が広がる最良の畑が選ばれている。すなわちシャンパーニュ全体としても最高の畑ということになるが、これらの特定の畑のブドウのみから、その年の気候条件や特徴を表現し、醸造家が一貫したスタイルのブレンドを精巧に造り上げるのがクリスタルだ。

そのロゼ・シャンパーニュである「クリスタル・ロゼ」は、クリスタルとして選ばれた畑から、よりロゼのスタイルに適った特定の5つの区画のみが選び抜かれているため、必然的に生産量は限定される。

ルイ・ロデレールの副社長兼醸造責任者のジャン・バティスト・レカイヨン氏は、「クリスタルとクリスタル・ロゼは、石灰質土壌の申し子であり、石灰質土壌から生まれるワインの繊細さ、正確さ、フレッシュさ、そしてフィネスを表現するもの」だと言う。

自然がもたらす条件が整ったベスト・ヴィンテージにしか造られないクリスタル。今年リリースされるクリスタル・ロゼの最新ヴィンテージについては次のように説明する。

「2015年は一言で表すなら、野心(ambition)の年です。非常に暑く乾燥し、これまでのシャンパーニュとは逸脱した気候だったため、クリスタルに使われる特級村の畑の中でも、アイ村、アヴィーズ村、メニル村といった冷涼な石灰質土壌のテロワールが鍵となりました。また、2015年はその気候条件から(ブドウの生育など)全てが早急に進む懸念があったため、栽培の面でも慎重に対応し、(生育をなるべく)ゆっくりにすることが大事でした。その結果、クリスタル・ロゼ2015は、こうした気候条件から想像されるリッチさやパワーとは真逆の、石灰質土壌の繊細さ、フレッシュさやフィネスを表現した、逆説的(oxymoron)な出来になりました」

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文=島 悠里、写真=島 悠里、茶懐石秋吉およびChampagne Louis Roederer提供

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