ベルは危機的な状況について効果的にメッセージを伝えるうえで、自身が過去に学んだ重要な教訓を振り返っている。「何年も前、わたし自身がリスク・コミュニケーションのトレーニングを受けたときに、基本原則を学びました。それは、リスクの高いコミュニケーションに臨む際には、重要なメッセージを3つにまとめ、それぞれのメッセージについて、その裏づけや補強となるポイントを3つずつ用意しておく、というものです。目標は、核となるメッセージにたえず立ち返り、そこから離れないことにあります」
長期戦に備える
危機の性質によっては、ビジネスリーダーは長い戦いを覚悟しないといけない。ロシアとウクライナの戦争は、開始から3年以上たつ今もなお激しく繰り広げられている。これはリーダーシップに関してもうひとつ重要な教訓を浮き彫りにしている。危機が長引くほど、企業の幹部が下す決断はさらに難しくなる可能性があるということだ。自社を守るためにどこまでやるのか、あるいは危機への対処やその終結のためにどこまでは許容し、どこからは許容しないのか、厳しい判断を迫られることになるかもしれない。
米海軍士官学校のベルは、戦争が始まって以来、「ゼレンスキーはその問いに何度も直面してきました」と述べ、「すべてのリーダーも同じです。危機は必ずしも短期間で解決するとは限らないのです。長期戦に備える必要があります」と警告する。「ゼレンスキーは従来の戦争の形を一変させるような戦いを進めながら、途方もない人的損失に耐えてきました。一世代全体の若い男性が失われた可能性があるほどです。リーダーは(ここから先は譲れないという)レッドラインを定めたうえで、場合によっては妥協するかどうかを判断しなくてはなりません」(ベル)
多くの企業幹部と同様に、ゼレンスキーも前もって危機管理の経験があったわけではない。彼はもともとコメディアンであり、この戦争によって戦時大統領になった。そして、これもやはり企業幹部らと同じように、そのリーダーシップは逆境という炎のなかで鍛えられてきた。
ゼレンスキーが置かれているこの逆境は終わる気配がない。CNNなどが報じているように、トランプは4月、ゼレンスキーがロシアによるクリミア支配を認めないと発言したことについて「ロシアとの和平交渉にとって非常に有害だ」と強く非難した。トランプは自身のSNSトゥルース・ソーシャルで「ゼレンスキーのあのような挑発的な発言こそが、この戦争の解決を困難にしている。彼に誇れるようなものなど何もない! ウクライナの状況は深刻だ。彼は平和を選ぶか、それともさらに3年戦って国全体を失うかだ」とも主張した。
戦争が長引くほど、そしてゼレンスキーが国を率いる期間が長くなるほど、企業幹部らが彼から学べる教訓も増えていくだろう。


