エゴを脇に置く
ロシアとの戦争が始まって以来、ゼレンスキーは「パートナーや支援国、フレネミー(友好的でも敵対的でもある相手)と関わるための新たな方策」を一貫して見いだしてきたと指摘するのは、コミュニケーションや政策を専門とするコンサルティング会社100マイル・ストラテジーズのマネージングプリンシパル、ジェフ・リーだ。「自国の将来にとってより良いチャンスを得られるのであれば、彼は自分のエゴを抑えることもいといません。それがよくわかるのは、(米国のドナルド・)トランプ大統領との、時に敵対的にもなる緊張関係です」
米ジョージ・メイソン大学国家安全保障研究所のフェローも務めるリーはゼレンスキーについて「戦場や交渉の場において自立と創意工夫を重視する姿勢を一貫して示しています。時には自国だけで対応しなくてはいけないという前提で動いています」とも評する。
最悪のシナリオに備える
企業の幹部たる者は、危機について自身の立場から説明しようとした際に、ほかの人たちから異論や反論にあって動揺するなどということがあってはならない。だからこそ、伝えたいメッセージが確実に届くように、事前にしっかり準備をしておくことが不可欠だ。ホワイトハウスで先ごろ、テレビカメラの前で行われたゼレンスキーとトランプら米政権高官との悲惨な会談は、この点でまさに反面教師にすべき事例だ。
この会談は、ゼレンスキーにとって、あるいは彼の国を支持する人たちにとっても、最悪のコミュニケーションシナリオが現実になってしまった、悪夢のような出来事だった。ゼレンスキーは、ウクライナの希少鉱物に関する権益を米国に認める合意文書に署名するためにワシントンD.C.を訪問した。だが、彼がロシアのウクライナ侵攻について自身の立場から説明しようとしたところ、トランプにたびたび遮られ、激しい口調で非難された。トランプはゼレンスキーに「第三次世界大戦を賭けたギャンブルをしている」などとも詰め寄った。
米海軍士官学校(アナポリス)でリーダーシップ論や倫理学を講じるバーバラ・ベル非常勤教授(退役海軍大佐)は「クライシス・コミュニケーション(危機管理の一環で行う情報の伝達や共有)は、クライシス・リーダーシップのたいへん重要な要素です。アドバイザーの助言に耳を傾け、メディア対応の本格的なトレーニングを受ける必要があります」と忠告する。そのうえで「わたしはゼレンスキーとトランプの一件をよく思い返すんです。もちろん、ゼレンスキーにもアドバイザーがいるでしょうが、あのきわめて重大な局面に十分な準備ができていたとは言えませんでした」
「よく練られたリスク・コミュニケーション戦略をもち、重要なメッセージに規律をもって集中していれば、結果はかなり違ったものになっていた可能性があります」(ベル)


