危機的状況下での情報伝達や管理をする上で、支離滅裂で予測不可能な方法を取ることは、外交の場だけでなく企業経営の世界でも危険で不安定なものになりかねない。指揮者の個性や経営方針が企業の危機管理にどう影響するか疑問に思う経営者は、米国のドナルド・トランプ大統領の外交問題への対応を、歴代の大統領のやり方と比較すると良い。
米ロードアイランド州ブリストルにあるロジャー・ウィリアムズ大学で政治学と国際関係論を専門とするジョゼフ・ロバーツ教授は、筆者の取材に対し、トランプ大統領の外交問題への対応は「歴代の政権と比べてはるかに秩序がない。(同大統領は)情報機関から得られる明確で実用的な情報よりも、自身の感情、特に怒りや不満に支配されているようだ」と述べた。その上で、トランプ大統領は事実が明らかになる前に、自国や同盟国に与える影響を考慮せず、自身が創設したSNSのトゥルースソーシャルに何でも即座に投稿すると指摘した。
SNS上で重大発表をするトランプ大統領
トランプ大統領がSNS上で決定を発表したり、警告や最後通告を発したりする傾向は、世界中の注目を集めるとともに、懸念を招いている。これが企業だった場合、同大統領のようにSNS上で危機に対応しようとする社長を容認する取締役会はほとんどないだろう。
米NBCニュースは先週、イスラエルとイランの間の緊張が高まる中、米国がイランへの奇襲攻撃を仕掛けた後で、トランプ大統領はいつものようにアルファベットの大文字を多用した思慮のないSNS投稿を通じて「外交という繊細な芸術」を遂行したと皮肉った。その上で、トランプ大統領の「SNS外交は特徴的な大文字書式で行われることが多く、歴代の大統領の伝統的なやり方からの脱却として新たな注目を集めている」と伝えた。
オバマ元大統領やバイデン前大統領との比較
トランプ大統領の危機管理方針は、バラク・オバマ元大統領やジョー・バイデン前大統領のやり方とは大きく異なる。選挙運動を専門とする米PR企業ファヒー・コミュニケーションズを設立したマイク・ファヒー最高経営責任者(CEO)は、筆者の取材に対し、オバマ元大統領とバイデン前大統領は、職員らとの幅広い協議とほぼ全員参加の合意形成に重きを置く指導方針を好んでいたと説明する。
一方、トランプ大統領は単独行動を好み、独自路線を行く傾向がある。同大統領の顧問の輪ははるかに小さく、相談の回数もはるかに少ない。ファヒーCEOは、トランプ大統領は明らかに極めて個人的で本能的な(そして激高していることが多い)指導方針で「その場その場の」意思決定を好む傾向があると指摘した。



