トランプ米大統領のイラン攻撃を巡る発言が揺れている。攻撃直後の6月21日に行った演説では「軍事的に大成功したと報告できる。イランの主要な核施設は完全に破壊された」と語った。ところが、米紙ニューヨーク・タイムズは22日、米軍の空爆により深刻な被害を受けたものの、完全には破壊されていない、とイスラエル軍が初期評価をしていると伝えた。同紙は24日、米政府による初期分析によれば、米軍とイスラエル軍による攻撃でイランの核開発計画に生じる遅れは「6カ月未満」だと推定されたと報じた。トランプ氏は27日、イランにウラン濃縮を続ける能力が残っていれば、核施設を再び空爆する考えを示した。
もともと、日米韓の核開発に詳しい専門家や元当局者らは、米軍の攻撃が成功しても、イランによる核開発を数か月程度遅らせる結果にしかならないと予測していた。関係者の1人は「原子炉が必要なプルトニウム型の核開発と異なり、遠心分離機を使うウラン型核開発は復旧も比較的簡単だ」と語っていた。別の1人は「いくら科学者を殺しても、イランはウラン濃縮のノウハウを取得済みだ。濃縮したウランは別の場所に移すだろうし、予備の遠心分離機の手当てもしているはずだ」と指摘していた。
トランプ氏を擁護する声も出ている。米中央情報局(CIA)のラトクリフ長官は25日、「イランの核開発計画が深刻な損害を受けたことを示す信頼できる情報がある」との声明を出した。ラトクリフ氏は「イランの主要核施設は破壊され、再建には数年を要する」とする分析を明らかにした。ただ、国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は、28日に公開された米CBSニュースとのインタビューで、イランがウラン濃縮活動を「数カ月かそれより早く」再開できる可能性があるとの見方を示した。
どちらの言い分が正しいのか。米情報機関の分析には一抹の不安が残る。「前科」があるからだ。米国家情報長官室は3月25日、世界の脅威を分析する年次報告書を公表した。第2期トランプ政権では初めての公表だったが、まず、「国境を超える犯罪とテロリスト」を取り上げた。だが、米軍やCIAは米国内での武力行使や諜報活動を禁じられている。ロシアや中国、イラン、北朝鮮の問題よりも上位に位置付けたこと自体、「情報機関による忖度」と言えるだろう。
ただ、ケイン統合参謀本部議長は26日の記者会見で、イラン攻撃作戦「ミッドナイト・ハンマー」の詳細な任務について語る一方、攻撃の成果については言及を避けた。国家安全保障担当の米大統領補佐官が不在の今、ケイン氏は米国家安全保障会議(NSC)でトランプ氏が攻撃に踏み切るかどうかを判断するうえで、最も重要な役回りを演じたとみられている。



