このように考えると、トランプ氏はケイン氏らから攻撃によるイランの損害予測など客観的な報告を受けていた可能性が高い。それでも攻撃に踏み切ったのは、イランの防空体制を無力化し、要人を次々に暗殺したイスラエル軍の攻撃の成果に気を良くして、「勝ち馬」に乗ろうという政治的な思惑が勝った結果だと考えられる。
これに対し、核開発やイランの事情に詳しい関係者らの多数は、「イランは核開発を進め、適当な時期にNPT(核不拡散条約)から離脱するだろう」という見方を持っている。イランはNPT体制に残り、IAEAによる厳格な査察を受けることが、米国やイスラエルによる攻撃を防ぐ保証になると考えて来た。攻撃が現実になった以上、イランにとってNPTに残る意味は薄れている。トランプ氏が27日、イランに対する制裁緩和の検討を停止する考えを示したことも、外交交渉にとどまる意欲を失わせただろう。何よりも、トランプ氏やイスラエルのネタニヤフ首相がたびたび口にしている「イランの体制転覆」を防ぐためには、核保有しかないと考えても不思議ではない。
イランの核保有への動きは、サウジアラビアに核保有の意思を持たせるかもしれない。北朝鮮は今回の攻撃で、「斬首作戦」への警戒を一層強めるだろうが、当然のことながら核放棄はしない。そもそも、すでに核爆弾を数十個保有し、核関連施設は米軍が一度に破壊できる能力を超えるほど数多い。IAEAのグロッシ事務局長は6月9日、北朝鮮・寧辺で新たな核関連施設が建設されていると報告している。米国によるイラン核施設攻撃はせいぜい、米韓同盟を結ぶ韓国内で高まる核独自武装論に冷や水を浴びせた程度の効果しかないだろう。
世界は1962年のキューバ危機や64年の中国による核実験の際、「核の拡散」「核戦争の恐怖」に緊張した。当時も、小国による独自核武装論が盛んに議論されたが、結局、1970年に発効したNPT体制につながった。各国が米国主導の戦後秩序に信頼を寄せ、独自に核武装するより、NPT体制に従った方が得だと考えたからだ。
これから、NPT体制は間違いなく大揺れになる。NPT体制は崩壊の危機に瀕するだろう。米国の一極支配が終わりを告げる以上、仕方のない展開だろうが、トランプ氏の功名心にかられた「ミッドナイト・ハンマー作戦」は、崩壊の時期をさらに早めた作戦として後世に記録されるかもしれない。


