私たちは「ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展」から何を学べるのか

第19回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展(Photo by Simone Padovani/Getty Images)

(Photo by Giuseppe Cottini/Getty Images)
最優秀国際展参加賞を受賞した「Canal Café」(Photo by Giuseppe Cottini/Getty Images)

建築展には表彰もあり、最優秀国別パビリオン賞(金獅子賞)は、バーレーン館の受動冷却システム「Heatwave」が、最優秀国際展参加賞はアルセナーレ運河の水を人工フィルターに通して浄化し、エスプレッソとして会場で配った「Canal Café」が受賞した。

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両者はともに、「説明を聞かないとわかりにくい展示が多かったなかで、出されたお題に対してストレートに答えていた」ように秋吉の目に映ったという。

日本館の展示は、「中立点」をテーマに、生成AIと人間、二項対立的なものをどう中和させるか提示。それは「気候変動の背景にある二項対立を批評するという、非常にクリティカルな展示だった」一方で、それ故にわかりにくさもあったと評する。

第19回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展 日本館展示「In-Between」(Photo by Giuseppe Cottini/Getty Images)
第19回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展 日本館展示「In-Between」(Photo by Giuseppe Cottini/Getty Images)

「今回初めて参加して、ここは賞を競い合う場ではなく、それぞれの国や事務所が取り組みを発表し、世界のメインストリームとの距離を計りながら、建築の未来に貢献し合うフェアな場だと感じました。そこでは、一方向でなく、共通マナーのもとコミュニケーションをとろうとする姿勢が重要であるという気づきも得ました」

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そのメインストリームであり、共通マナーを打ち出すのは往々にして欧米である。日本は世界最多で8人の建築家がプリツカー賞を受賞しているが、業界をリードする側にいるかと思えば、それと現実とは少し違うのだと秋吉はいう。

「現代アートと同じように建築においても、欧米が築いてきた文脈のなかでどう振る舞うことができるかが重要だと感じました。プリツカー賞を受賞した巨匠たちの時代と現在とでは状況は大きく変化し、ヨーロッパでは特に、気候危機に対して建築がどう対応できるかと問い掛けられています。そういう意味では、単に美しいものや画期的なものを作ればいい時代は終わったと言えます。

例えば、渋沢栄一や本多静六、福沢諭吉など明治時代のパイオニアたちは、グローバルな文脈の中で何ができるかを内省した上で、新たな領域を開拓し、日本の近代化に大きな影響を与えました。現代の建築界においても、世界に打って出る経験なくしては、競争力は衰えてしまうのではないでしょうか」

今回、JINSの田中仁社長が音頭をとる青木淳後援会による研究渡航支援でヴェネチアを訪れたのは11人。円安などの影響により海外に出にくい若手に、最前線を視察や他国の建築関係者と交流を深める機会を提供すべく実施されたものだ。

それは、「日本の中で細かな差異を競い合うのではなく、世界で戦えるオリジナリティを意識すべきだと感じた」という秋吉のように、スタンスの取り方、戦い方を知る機会ともなる。

刻々とゲームのルールが変わり続ける世界で、日本が世界にプレゼンスを発揮できるかどうか。オンラインでいくらでも情報が手に入るようになる一方で、こうしたリアルな経験の重要度はますます増していきそうだ。

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文=守屋美佳

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