新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるロックダウン中に、手工芸(ハンドクラフト)やクリエイティブな趣味を始めた人は、その期間を乗り切る助けになったかもしれない。英国の研究チームが学術誌『Frontiers in Public Health』で発表した2024年の研究は、創作活動がメンタルヘルスを向上させることを示唆している。
この研究では、英文化・メディア・スポーツ省(DCMS)が毎年実施している世論調査「Taking Part Survey」のデータを使用し、人々の趣味や余暇の過ごし方について詳しく調べた。
芸術や手工芸がメンタルヘルスに与える影響を調べた既存の研究の多くは、単一の活動に焦点を当てている。しかしこの研究では、世論調査に参加した7182人の回答を分析することで、創作活動全般の広範な影響を知ることができた。
研究を率いた、英アングリア・ラスキン大学の認知心理学者ヘレン・キーズはFrontiersの記事で、「『創造的なアートや手工芸(Creating Arts and Crafting:CAC)』は、人生に価値があると感じているかどうかを予測する上で、有意な効果を示した」と述べている。
キーズはさらに、「手工芸の影響は、就職の影響よりも大きかった。手工芸は達成感を与えてくれるし、自己表現の手段でもある。就職は必ずしもそうではない」と付け加えた。
創造的な趣味を持つ人は、より高いレベルの幸福度を報告したが、孤独感については目立った変化は見られなかった。多くの創造的な趣味はひとりでできることを考えれば、当然のことかもしれない。
サンプル数が多いことで、年齢、性別、社会経済的要因など、ウェルビーイングに影響を与えるほかの要因を補正することも容易だった。これらの調整を行なった後でも、「過去1年間に少なくとも1回は手工芸活動を行なった人」と、行わなかった人との間には顕著な違いが見られた。
「こうした活動に従事することは、人生には価値があるという意識、人生の満足度、幸福度の向上と関連している」とキーズは述べている。
世論調査には、全般的な幸福度や人生の満足度に関する質問があり、手工芸を楽しむ人は、どちらもほかの人よりスコアが高かった。創作活動の効果は比較的小さいものの、雇用状況などの要因と同程度だった。そして、新しい仕事を見つけることに比べれば、手工芸を始める方がはるかに簡単だ。つまり、手工芸はウェルビーイングを高めるための簡単な方法かもしれない。
キーズは、こう提言している。「政府やNHS(国民保健サービス)は、ウェルビーイングとメンタルヘルスの促進と予防の一環として、手工芸への資金援助や普及促進を検討すべきかもしれない。さらには、リスクのある人々に対して、こうした活動を処方する取り組みを社会的に進めることも考えられる」。
ただし、相関関係は因果関係ではない。手工芸を楽しむ人が全体的に幸福度が高いからといって、手工芸が幸福度を高めたとは限らない。キーズは、「次の段階では、手工芸を長期間行なった前後で幸福度を測定する実験研究を行いたい」と述べている。



