19年には、母校である立命館大学がグローバル教養学部を新設するに際し、「自分が若かりしころに世界を目指したように、これからを担う学生たちにもその眼差しをもってほしい」という想いから私財25億円を投じて分林記念館を開設した。
海外には寄贈者の名がついた記念館が当たり前にあるのに日本には少ないという現状に疑問もあった。同館には能舞台や茶室が備えられ、グローバルを目指す学生の支援拠点として機能している。また、友人が設立した高校生への奨学資金財団の理事長を引継ぎ、毎年奨学資金活動も行っている。
こうした文化的、社会的な活動を聞きつけてか、最近は1200人の団員が所属する日本オペラ振興会の理事長を頼まれた。「文化事業は、補助金頼りで数字を見ていないところがある。能は武家社会の支援、オペラは貴族社会の支援等がなくなり、時代にあわせた変化が求められるなか、いずれも公演ごとの黒字化も目指しています。相当に寄付もしなければなりませんが」と笑う。3月には名作日本オペラ「静と義経」を公演し、2日で4000人を集客。すでに手応えを感じているという。
彼の好きな世阿弥の言葉に「離見の見」がある。演者が観客の視点から自分を見つめ、客観的に芸を磨くことの重要性を説いた教えだが、分林の生き様を見ていると、それ以上の意味が浮かんでくる。「相手の幸福を想像し、共に喜ぶ」。これは、彼の座右の銘でもある「自利利他」に通じる。他者の利益を優先することで、巡り巡って自らの利益となる。その思想を貫く姿勢は、世阿弥が求めた「花」(観る者の心に残る感動)を咲かせることそのものである。
分林保弘◎京都府出身。立命館大学 経営学部卒業後、日本オリベッティに入社。1991年に日本M&Aセンターを設立し、翌年、代表取締役社長に就任。2006年東証マザーズ上場、翌年には東証一部上場へと同社を導く。23年より名誉会長。著書に『改訂版 中小企業のためのM&A徹底活用法』(PHP研究所)など。


