アップルの映像制作部門が手がけたブラッド・ピット主演の映画『F1/エフワン』が、週末の北米興行収入ランキングでトップに躍り出た。この作品は、ハイテク大手アップルの映画やドラマの制作部門としては、はじめての劇場における本格的ヒット作となった。
複数のハリウッドの業界誌が伝えた速報によると、『F1/エフワン』の週末の北米における興行収入は5560万ドル(約80億円)に達した。また、海外での興行収入は8840万ドル(約128億円)に達し、先行上映分が1000万ドル(約14億4000万円)とされている。
ただし、この映画の制作費は2億ドル(約289億円)と高額で、興行収入で利益を上げるためには今後の数週間の間、この勢いを維持する必要がある。
一方、2022年にサプライズヒットとなったホラー映画『M3GAN/ミーガン』の続編『M3GAN ミーガン 2.0』の公開初週末の興行収入は1020万ドル(約14億7000万円)にとどまり、『ヒックとドラゴン』といった過去のタイトルに後れを取った。
アップルの制作スタジオであるApple Original Filmsは、過去5年間でいくつかの注目すべき映画を送り出してきた。そこには、マーティン・スコセッシ監督による3時間超の長編『キラーズ・オブ・ザ・フラワー・ムーン』や2022年にアカデミー賞作品賞を受賞した『コーダ あいのうた』などが含まれる。ただし、これらの作品の多くは、興行収入だけでは黒字化はおろか採算ラインに乗ることすらできなかった。スコセッシ監督の作品の興行収入は1億5880万ドル(約229億円)を記録したが、2億ドル(約289億円)以上と推定された制作費を大きく下回った。
これまでで最も高い興行収入をあげたアップルの映画は、2023年のリドリー・スコット監督作の『ナポレオン』で、推定1億3000万ドル(約188億円)から2億ドルとされた制作費に対して、2億2800万ドル(約329億円)の興行収入を記録した。好調な出だしを記録した『F1/エフワン』の興行収入は、『ナポレオン』を上回る見通しだ。
アップルのティム・クックCEOは、同社の映画やテレビドラマへの多額の投資が、本業のコンシューマー向け電子機器の販売と直接的な関係はないと語っている。同CEOは、2024年6月のバラエティ誌に対して「この事業でiPhoneの売上を伸ばそうとは考えていない」と述べていた。
米国のiPhoneユーザーにプッシュ通知でプロモーション
ただし、アップルは『F1/エフワン』のプロモーションに、自社の広範なユーザーネットワークを活用している。全米のiPhoneユーザーは週末に、映画チケットの購入サービス「Fandango」を通じて2枚同時にチケットを購入した場合に、10ドルの割引が受けられるというプッシュ通知を受け取った。
アップルはこの映画の制作にあたり、世界の興行収入が12億ドル(約1730億円)を超えた2022年の大ヒット作『トップガン マーヴェリック』を手がけたジョセフ・コシンスキー監督と伝説的プロデューサー、ジェリー・ブラッカイマーを起用した。
一方、『F1/エフワン』は、レースファンにはおなじみの手法を使って、すでに制作費の一部を回収している。プロデューサーは、この映画の架空のレーシングチーム「APXGP」の命名権を実在するブランドに販売し、ブラッド・ピットが演じたキャラクターのマシンやレーシングスーツに、メルセデスや自動車保険会社Geicoなどのロゴを掲載した。このスポンサー契約によって、映画は約4000万ドル(約57億7000万円)の収入を得たと、プロデューサーのデビッド・リーナーはフォーブスに語っている。



