もうひとつの伝播ルートは米国債の利回りだ。米国の金利が急騰すればアジアの信用市場に混乱をもたらしかねない。4〜5月にはトランプ関税の影響で米国債市場のミニクラッシュが起こり、東京市場を揺さぶった。
5月中旬、日本の財務省が実施した20年物国債の定例入札は惨憺たる結果に終わった。2045年償還予定のおよそ1兆円分が売り出されたが、需要は2012年以来の弱さで、落札価格の平均と最低の差である「テール」は1987年以来の大きさだった。その後、5月下旬に行われた40年物国債の入札も同様に不調だった。
しかも同月には、日本の財政状況は「ギリシャよりもよろしくない」という石破茂首相の発言も重なった。その結果、日本は最もありがたくない意味で、世界のニュースの見出しに飾られた。
ただし、石破はたんに日本の財政状況がギリシャよりも悪いと言ったのではない。この発言は、減税を求める野党議員への国会答弁のなかで行われた。日本は財政余力に乏しく、減税をするような余裕はないというのが答弁の趣旨であり、石破はその引き合いにギリシャを出したのだった。しかしこの失言は、市場関係者の間で、考えられる限り最悪のかたちで拡散してしまった。あちこちの格付け会社がアンテナを立てることになったのは確実だ。
植田のチームにとって、これらのリスクは、ただでさえ困難を極める7月の政策金利決定をますます難しくするものである。日本の重要なインフレ指標は5月に前年同月比3.7%上昇し、2年4カ月ぶりの大きな伸び率を記録した。日銀の物価目標2%よりも2倍近く高い水準であり、主要7カ国(G7)で最悪のインフレ率だ。
日本経済は同時に、リセッション(景気後退)に陥っている可能性が非常に高い。日本の実質国内総生産(GDP)は今年1〜3月期に年率換算で0.2%縮小したが、これはトランプ関税の悪影響が本格化する前のことだ。4〜6月期はさらに深いマイナス成長に沈むことがほぼ確実視される。
そのため日銀は大きなジレンマに直面している。インフレ抑制のために金融政策の引き締めを進めれば、景気にさらに打撃を与えかねない。一方で金融政策を現状で維持すれば、物価高がますます定着するおそれがある。


