ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、2021年にスリランカを襲った惨事を再現しようとしているようだ。スリランカでは、ゴタバヤ・ラジャパクサ元大統領が合成肥料と農薬の使用禁止を命じ、国内の農家に有機農業への移行を強制した。この命令は環境に対する懸念から出されたものだったが、無謀だった。その結果、飢饉(ききん)が発生し、最終的には深刻な経済危機に発展。ラジャパクサ元大統領自身が失職することとなった。
一方、ウクライナではプーチン大統領が穀物倉庫への攻撃を命じている。ウクライナ軍によるロシアの肥料工場への攻撃に対する報復として、ロシア軍がウクライナの肥料工場を標的にした場合、何が起こるかは誰にも分からない。こうした攻撃の激化は生産の混乱を招くだけでなく、欧州連合(EU)の周辺で深刻な環境破壊を引き起こすリスクがある。ロシアの大規模な肥料工場に対する攻撃により、ここ数週間で尿素など窒素系肥料の価格はすでに6~10%上昇しており、肥料全般の価格が今後20~40%上昇する恐れもある。
商品市場はすでに影響を受けている。農産物先物取引では、過去の同様の混乱時に小麦の価格が一部の契約で50~70%急騰したことがある。黒海からの輸出が再び中断すれば、数カ月以内に同様の急騰が起きる恐れがあると警告する専門家もいる。ウクライナはトウモロコシの輸出で世界全体の約15%を占めているが、米国と南米の生産者が直ちに作付面積を拡大しない限り、トウモロコシの価格は今後さらに30~50%急騰する可能性がある。ウクライナ(50%)とロシア(17%)が支配的なヒマワリ油市場は特に脆弱(ぜいじゃく)だ。2022年3月には1カ月で価格が23%上昇したように、専門家は現在、輸出が停止すれば40~60%の値上がりが引き起こされると予測している。その波及効果でパーム油と大豆油も20~30%上昇するとみられている。ウクライナ最大のヒマワリ油メーカー「ケルネル」は今年、原料不足により、工場の1つを閉鎖することになった。
米国はイスラエルとイランの停戦を仲介したことで、かなりの外交的な推進力を得た。これを活用し、ロシアとウクライナによる互いの食料と肥料の貯蔵施設に対する攻撃の激化に歯止めをかけることができるかもしれない。米国のドナルド・トランプ大統領が世界的な飢饉を回避すれば、高い評価を得ることになるだろう。


