2023年、サル・カーンがカーン・アカデミー(Khan Academy)のチュータリングプラットフォームにGPT-4を導入し、教育界に衝撃を与えた。同サービスは、小学校レベルから大学初級レベルまで対応する、無料のオンライン学習プラットフォームだ。
この取り組みによって、初めて生成型AIが複雑なAP(大学進学準備プログラム)問題を順を追って解説し、ソクラテス式コーチング(対話型指導)を行い、あらゆる教科で即座にフィードバックを提供できるようになった。それは高速かつ誰でも利用でき、多くの面で効果的だった。
しかし、『ニューヨーク・タイムズ』が報じたところでは、カーン・アカデミーのAIチューター「Khanmigo(カーンミーゴ)」に対する反応は賛否両論だった。教育関係者の中には、このボットが「考える行為をやりすぎる」ことで学生の批判的思考力を阻害しかねないと懸念する声があった。一方で、AIが誤解を早期に指摘し、人間の教師が行うようなオープンエンド(自由回答形式)の質問を投げかけられれば、さらに効果的になるだろうという指摘もあった。
Axiosにまとめられたウォートン・スクールの研究によると、演習でAIツールを使用した学生は、AIの助けを得られない試験では「著しく成績が低下」したという。一方、全米数学教師会議(National Council of Teachers of Mathematics)は、これらのAIツールが有用であるものの、「学生には教師が必要で、既存の知識、新しい知識、共有された知識をつなぐ架け橋を築く手助けを受けられるべきだ」と指摘している。
AIができることと人間だけが行うべきこととのギャップに注目すべき
これは、AIがミリ秒単位で文法を訂正し、ユネスコ(UNESCO)によれば言語の壁を越えて教育サービスの行き届かない地域へのアクセスを拡大し、世界の教育を変革できる可能性があるとしても、依然としてAIにはできないことが多く残っているという強い警鐘となっている。
セルヴァ・パンカジ(リージェント・グループ共同CEO)のような専門家は、AIとの関係が深化するにつれて、AIができることと人間だけが行うべきこととのギャップに注目すべきだと語る。パンカジはインタビューで、「アルゴリズムと人間の知能が調和して働く世界に備えられるよう、教育システムを近代化することが最も重要な一歩です」と述べている。
AI駆動の世界におけるスキルの再考
AIツールはもはや「あると便利」な存在ではない。現在ではインテリジェント・アシスタントとして、タスク管理、会議のスケジュール調整、メールの作成、アートワークの生成、大量データの解析などを、しばしば単一のプロンプトでこなす。フォーブスのロン・キャメロンが指摘するように、多くのAIシステムは人間の監督なしに反復作業を処理できる「知的アシスタント」の域に達している。
この傾向は衰えず、いまや雇用市場を大きく変えつつある。世界経済フォーラム(WEF)の2023年版『未来の仕事』レポートによれば、データ入力係や銀行窓口係の需要は急速に減少すると見込まれている。これがグラフィックデザインやデータ分析といったハードスキルの消失を意味するわけではないが、それらスキルを持っているだけでは不十分になることは確実だ。
パンカジは、AIの影響を反映するようグローバルカリキュラムを進化させる必要があると考えている。「教育は過去500年にわたりほとんど変わって来ませんでした。私たちはAIを活用してすべての人の教育を向上させる第四の教育革命の入口に立っているのです」と語る。
具体的な事例を尋ねると、パンカジは「AIシステムはテスト結果を迅速に分析し、学生がどこでつまずき、なぜ困難を抱えているかを可視化できます。これにより教師は時間を節約し、的確な指導を行えるのです」と説明する。
WEFのある報告書は、教育の未来はAIと人間が相補的に機能するハイブリッド知能にあると論じる。そこでは「AIの分析力と人間教師の不可欠な要素を融合することで、次世代の教育を真に革新できる」とされている。



