私たちは、ある物語を聞かされてきた。それは、本物の、充実した、歴史に残るような成功は、「より多くのこと」をすることによって得られるというものだ。
もっと精を出す。もっと大きな目標を目指す。もっと資格試験を受ける。もっとセルフケアをする。もっとインパクトを与える。すべてにおいてもっと頑張る。
しかし、高い業績を挙げるリーダーの多くにとって、この物語は崩壊し始めている。
忙しさがふと消えた静かな時間、たとえば飛行機に乗っているときや、Zoomミーティングが始まる前、深夜といった時間に、しばしば「これでいいのだろうか?」という静かな問いが生まれる。達成感とは裏腹に、何かが不完全だという感覚があるのだ。それは、全体と比べれば1%かもしれないが、それでも何かが欠けていると感じられる。
筆者は、目的志向のリーダーたちと何十年にもわたって仕事をし、「3つの次元で導く(Lead in 3D)」フレームワークを構築し、それを役員室や、より広い生活環境でテストしてきた。その結果、こう確信するようになった。つまり、より多くのことをすること、特にひとつの分野でそれを行うことは、必然的に収穫逓減(diminishing returns:投入量を増やしても、得られる収益の伸びが次第に小さくなる現象)につながる、ということだ。
だが、強力な代替案がある。そしてそれは、充実の方程式を解き明かす鍵でもある。
収穫逓減のワナ
経済学者たちは昔から、農業を例にして収穫逓減の概念を説明してきた。決まった広さの土地、決まった量の種子、限られた労働力を持つ農家を想像してほしい。土地を増やしても、それを使う労働者や種が足りなければ何の役にも立たない。種を倍にしても、土地の広さと労働力が同じなら、収穫は倍にはならない。究極的にいえば、ひとつのレバーを押すだけでは、収穫量は横ばいのままとなり、限界利益は縮小するのだ。
これは、経済学の話にとどまらない。私たちの多くがどう生き、リーダーとしてどう行動するか、という話だ。
私たちは、ひとつの次元に全力投球する。
・仕事(「私たち」の次元)にすべてを注ぎ込み、パフォーマンスを追い求める
・あるいは、セルフケア(「自分」の次元)に懸命に軸足を置き、回復しようとする
・あるいは、大義(「世界」の次元)のためにすべてを捧げ、影響を与えようと努力する
どれも立派なことだ。しかし、それぞれを単独で追求すると、結局は行き詰まって頭打ちになる。そしてそれらはしばしば、私たちを燃え尽きさせ、断絶させ、静かに不満感を残す。
これが収穫逓減のワナだ。こうした生き方は、直線的で、脆弱で、限界がある。



