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2025.07.04 10:30

ストリーミングが生んだ日本の音楽産業革命──『プラスティック・ラブ』から『アイドル』まで

1984年にリリースされた竹内まりやの『プラスティック・ラブ』は、海外リスナーに偶然発見され大ヒットした(Shutterstock.com)

1984年にリリースされた竹内まりやの『プラスティック・ラブ』は、海外リスナーに偶然発見され大ヒットした(Shutterstock.com)

「深夜、ロサンゼルスの大学生がYouTubeでレポートを仕上げる際に聴きたいBGMリストを作っていた。レコメンデーションに現れたのは、見慣れない日本語タイトルの楽曲。

1984年にリリースされた竹内まりやの『プラスティック・ラブ』を非公式に紹介したPV動画だった。この偶然の出会いを皮切りに、2018年12月に非公式動画が削除されるまで2400万回以上が再生され、その後のシティポップブームを生み出すきっかけとなったのだった……」

この短い話の冒頭は創作だ。

しかし、『プラスティック・ラブ』が偶然発見され、グローバルヒットへのスタート地点になったことは事実だ。

実は『プラスティック・ラブ』の話には続きがある。

当時、竹内まりやの楽曲はストリーミング配信されておらず、YouTubeでこの曲を知ったリスナーたちは、YouTube動画の削除によってこの曲を聴く手段を失うことになった。

そんな『プラスティック・ラブ』が初めてストリーミングサービスで配信されたのは2018年11月のこと。Amazon Music Unlimitedでの限定配信である。限定配信であるが故に爆発的な再生回数とはならなかったが、SpotifyApple Musicで2020年12月に配信が始まると、世界中でヘビーローテーションし始めたのだ。

このヒットを演出したのは「推奨アルゴリズム」という、意思なき仲介者である。機械的なアルゴリズムによる推奨が、未知の音楽の発見を主導しただけではなく、音楽ジャンルまでをも確立した。シティポップの世界的なブレイクだ。

しかし、このブレイクは後述するように「偶然」の産物でもある。では「必然」のヒットを生む力は、日本の音楽産業にあるのだろうか?

「ある」ということを、さまざまな数字や関係者の証言は語っている。

Spotifyによると、同社が2024年に支払った日本のアーティスト向けのロイヤリティのうち50%は、海外で再生されたことによるものだった。しかも、部分的にではあるが「狙って」海外ヒットを取りに行っている。

決して楽観的な、つまり簡単にヒットを生み出せる世界ではないことに変わりはないが、日本の音楽産業に大きな変化が生まれていることは間違いない。

偶然の再発見が示した新しい可能性

さて、シティポップ現象を理解するには、そもそも動画や音楽のストリーミングサービスの「推奨アルゴリズム」がどのようなものかを知る必要がある。

推奨アルゴリズムはコンピュータが楽曲を分解し、音楽を「理解」するところから始まる。YouTubeやSpotifyの楽曲推奨システムでは、その特徴を楽曲を40以上の評価軸で数値化しているのだ。

テンポ、ハーモニー、リズム、楽器編成、さらには音階パターンによる「感情的トーン」までもが数値化され、普段聴いている曲やお気に入り登録している楽曲の傾向が学習されていく。その学習結果により、あなたが好む音楽との類似性から推奨する楽曲を判断するのだ。

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編集=安井克至

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