戦略的成長へのスタート地点
先日開催されたMUSIC AWARDS JAPANは、この流れを加速させるために業界が一致団結した一歩といえるだろう。5つの主要音楽団体の史上初の連携により実現したこの賞は、国外市場に目をむける業界関係者の願いともいえる。
5000名以上の国際音楽業界関係者」がMUSIC AWARDS JAPANの審査員として参加したとされるが、選定基準や人数の妥当性について不明確な点が残る。国際イベントとしての権威を定着させるためにも、この点は透明性向上に期待したい。表彰の基本となるチャートの評価方法に関しても、まだ調整の余地はありそうだ。
しかし、日本音楽の国際的認知度を体系的に高める戦略的プラットフォームとして考えるならば、明確なスタート地点であり、少なくとも初年度は成功だったと評価できるはずだ。
政府の支援も本格化している。
刷新されたクールジャパン戦略では、2033年までに50兆円の経済効果を目標に設定。トヨタとの提携による「Music Way Project」では、ロサンゼルス、ロンドン、タイに海外拠点を設立予定だ。これまでにあった偶発的成功を、再現可能な成功モデルに転換する試みともいえる。
「言語の壁」に関して振り返るなら、シティポップの偶然の成功は、逆説的だが「日本語で歌われたからこそ」とも言える。『プラスティック・ラブ』や『真夜中のドア』は、都会的なサウンド、ノスタルジックな感性が融合した独自の魅力で推奨アルゴリズムを通じて海外リスナーに届き、そこに日本語による歌唱も心をつかんだと考えられる。
日本語の歌詞は、シティポップの都会的でノスタルジックな雰囲気や、アニメ関連楽曲の感情的訴求力と結びつき、海外リスナーにとって「エキゾチック」かつ新鮮な体験を提供した。
たとえば、英語圏のアーティストが不自然な日本語で歌ったとしても、日本の音楽市場で成功するのは難しいだろう。同様に、日本の音楽が世界で成功するには、不自然な英語に頼らず、母国語で日本独自の感性と音楽性を表現することも重要だ。
日本語で歌い、日本的なクリエイティビティを保ちながら、ストリーミング技術やアルゴリズムの力を活用して世界に届ける。この「ありのままの国際化」こそが、日本の音楽産業がグローバル市場で勝つための基盤となる。
アルゴリズムが開いた扉の向こうに
IFPI(国際レコード産業連盟)の「Global Music Report 2023」では、日本の音楽産業は年成長率13.8%が当面は続くとされている。そうした未来においては、海外からのロイヤリティ収入が70%を超えているかもしれない。飽和した国内市場が急成長しないとするなら、増収分は海外からの流入となるからだ。
始まりはアルゴリズムが開いた「偶然の扉」だったかもしれない。しかし、『アイドル』や『Bling-Bang-Bang-Born』は、事業環境の変化を見据えた上で「ヒットを狙った」結果生まれた、「必然」による成功だろう。
世界が日本音楽の魅力を「発見」した結果、変化した市場環境に適応し、日本の音楽のオリジナリティを磨き込むことが、アルゴリズムという新たな仲介者を味方につけるキモの要素なのだと思う。
偶然から始まった国際化は、今や必然の流れとなった。問われているのは、この機会をどう活かすかだ。答えは明確。良い音楽を作り続けること。シンプルだが、最も困難で、最も確実な道がそこにある。


