Spotify上でのアニメ音楽再生回数が2021年から2024年にかけて395%増加し、ユーザーが作成するプレイリストは670万件に達した。アニメという視覚的コンテキストと音楽の感情的訴求力が相乗効果を生み、このような背景としてのデータが生まれたからこそ、非アニメファンにも音楽が推奨されるリコメンデーションエンジンへの影響を与えたといえる。
しかし、音楽制作を行なっている現場からは「言語の壁は現在も色濃く存在する」という声は大きい。アニメ文化のグローバル化が、その主題歌のグローバル化(言語非依存化)を推し進めたことで、言語依存要素が薄まっただけ、というわけだ。
ただ、その逆現象も観測できる。『Bling-Bang-Bang-Born』のヒットが先行するかたちで、海外で主題歌として採用しているアニメ『マッシュル-MASHLE-』の数字が伸びた。
ビジネスモデルの静かな、しかし大きな変化
日本の音楽市場で起きている変化は表面的な数字以上に深い。
2024年の市場規模21億5000万ドル(約3100億円)から2030年には47億3000万ドル(約68400億円)へ、年平均成長率13.8%での拡大が予測されている。しかしより重要なのは、収益構造の質的変化だ。
日本は世界でもっとも物理メディアでの収益が「落ちなかった」市場だ。そんな日本市場もアルバム販売モデルから、ストリーミングによる継続的収益モデルへの転換が進んでいる。アーティストと聴き手の関係性、音楽の作り方、プロモーション戦略、すべてが根本から変わりつつある。
一方で、変わりつつあるものの、極端な物理メディア市場の崩壊はまだ起きていない。
物理メディアが依然として市場の66%を占める日本が、世界的に異質であることは変わりない。しかしこの「物理メディア市場崩壊の遅れ」は、独自性の高いこだわりの音楽制作環境を維持し、アルゴリズムが評価する洗練されたプロダクションを生み出す土壌となっている。
『アイドル』にしても『Bling-Bang-Bang-Born』にしても、独自の市場性に最適化されたエコシステムにより、挑戦できる環境を生み出されている。アニメ関連音楽市場は274億円規模に達し、アニメ産業全体の海外売上1兆4600億円の重要な構成要素となっており、積極的に投資すべき対象だ。
第二に、日本の音楽制作の職人気質だ。緻密な編曲、高度な演奏技術、そして感情的な深みを持つメロディライン。アニメをスタート地点に投資できる環境があるからこそ、アルゴリズムが「質の高い音楽」として認識し、推薦する確率を高めるだけの質の高いプロダクションが行える。
第三に、多様性だ。J-POP、ロック、シティポップ、アニソン、さらには演歌まで、日本音楽のジャンルは幅広く、そしてグローバルの中でもユニークなポートフォリオだ。さまざまな嗜好を持つ世界中のリスナーとの接点がストリーミングの普及によって増えたことで、閉鎖的な環境から解放されたともいえる。


