ここで重要なのは、この推奨楽曲の分析プロセスに「歌詞の言語」は含まれていないこと。つまり、日本語で歌われる竹内まりやの楽曲が海外のユーザーに発見されたのは偶然でもなんでもない。
2010年代後半によく聴かれていたヴェイパーウェイブ(Vaporwave)やロー・ファイ・ヒップホップ(Lo-Fi Hip Hop)との類似性から、リスナーの好みに近いと判断されて推奨されたのだ。もちろん、この曲が洗練されたプロダクション、都会的な雰囲気、そしてノスタルジックな要素を含んでいた点も大きい。
これらの特徴もまた、2010年代後半の音楽トレンドと完璧に合致しているからだ。
同様の軌跡を辿った松原みきの『真夜中のドア/Stay With Me』の場合、最初のリリースから40年後の2020年、TikTokで若い世代に「発見」され、SpotifyのGlobal Viral Chartsで18日連続1位を獲得し、そのムーブメントは他の配信プラットフォームにも広がった。
言語の壁は幻想なのか? それとも?
このシティポップムーブメントで明らかになった、最も重要なことは「言語の壁」が幻想だったということだが、一方でシティポップがグローバルで急伸した理由には、偶然の要素が大きいことも否定はできない。
「日本語は他国で使用されない独特な言語で、耳慣れず内容が理解できないため海外ではヒットしない」
坂本九の『上を向いて歩こう』が、1963年にビルボードチャートトップを獲得して以来、業界を支配してきたこの認識を、アルゴリズム推奨が覆したのだろうか?
YOASOBIの『アイドル』がBillboard Global 200で7位を記録し、総再生回数10億回を突破した。Creepy Nutsの『Bling-Bang-Bang-Born』は、2024年3月にYouTubeの音楽部門で1位を記録した。
ストリーミングプラットフォームで米国のティーンエイジャーがJ-POPを聴くようになった理由は、アニメが大人気になって「日本語を理解するようになったから」ではない。なぜなら、その程度の母数で世界1位を取れるほど甘いものではないからだ。
これらの楽曲がヒットしたのは、推奨された海外リスナーが楽曲を「自分の好みに合う音楽」と感じたからに他ならない。
もちろん、アニメ文化のグローバルでの広がりも、このムーブメントを補強する要素であることは他ならない。LiSAの『炎』やYOASOBIの『アイドル』では、アニメが世界的ヒットへの「ローンチャー」になったことは確かだろう。


