「真にクライアントの成長に貢献できているだろうか」——そんな自問から生まれたのが、新しいコンサルティングの形を追求する、2024年創業のコンサルティングファーム「SYNTHESIS(シンセシス)」だ。
代表の武藤惣一郎はアクセンチュアにて証券プラクティスのアジア太平洋・アフリカ・ラテンアメリカ・中東地区統括マネジングディレクターを務めた、コンサル歴20年以上のプロフェッショナル。そんな武藤が立ち上げたSYNTHESISでは、2025年7月現在、12カ国50名以上の多様な人財が、従来の枠を超えた働き方と成長機会を追求している。
競合ひしめくコンサルティング業界で、起業に踏み切ったのはなぜだったのか。武藤の思いと、SYNTHESISが目指す未来を聞いた。
クライアントの本質的な課題解決に、徹底してコミットする
2024年の創業から1年。メンバーの国籍は11カ国に及び、東京、ニューヨーク、ロサンゼルス、香港、シンガポールの各都市にメンバーが点在。大手外資系ファーム出身者から、研究者、デザイナーまで、実に多様なバックグラウンドを持つプロフェッショナルが集結している。スタートアップでありながら、卓越したコンサルティング力とグローバルネットワークを強みに、並み居る競合とのコンペを勝ち抜き、日本を代表する大手企業とのプロジェクトを手掛けてきた。
代表の武藤惣一郎は、新卒でアクセンチュアに入社以来、20年以上コンサルティングの前線でクライアントの課題に向き合ってきた。マネジングディレクターとして脂の乗っていた時期、40歳を節目にしてなぜ起業を決断したのか。
「私が入社した2005年にコンサルタントとしてキャリアをスタートしましたが、それ以降コンサルティング会社は飛躍的に成長・拡大し、私自身も大きな達成感を得てきました。これまでの仕事でご一緒させていただいた方々には、今でも感謝とリスペクトの気持ちは変わりません。
ただ、40代を目前にしたタイミングで日本社会を見渡したとき、日本企業はどれだけ強くなったのだろうと疑問が膨らんできました。外資系が成長する一方で、若いときに見ていた日本企業のプレゼンスは年々小さくなっている。海外のミーティングでは日本のことが話題にならない光景を目にすることも多く、残りのキャリアを今の外資系コンサルティングの延長線上で過ごしていて本当にいいのだろうかと自問するようになりました。テクノロジーやプロフェッショナルサービスの領域で、日本からグローバルに出ていける会社を創りたいという想いを抱くと同時に、長年携わってきたコンサルティングという仕事そのものを見つめ直すきっかけにもなりました。」
こうした問題意識から、起業というチャレンジを決めた武藤は、さらに次のように続ける。
「今や大企業と称される日本の歴史ある企業もすべて、始まりはスタートアップだったのです。かつては、商売をするとは会社を興すことであり、起業はもっと当たり前のことだったのではないでしょうか。今は大企業に就職してキャリアを終えるのが一般的な選択肢になっていますが、本来は自分たちで仲間を集め、会社を創り、強くしていくという道がもっとあってもいいはず。かつての日本の起業家たちが今の大企業を創ったように、自分たちの世代は後世にも貢献できるような企業を創らなくていいのか──そんな自戒も込めて、SYNTHESISを立ち上げました。」(武藤)
SYNTHESISの特徴は、クライアントの成長に徹底してコミットし、根本的な課題解決に共に取り組む姿勢とAI時代の新たなコンサルティングモデルを実践している点にある。
「コンサルティングは、ペーパーワークだけで価値を提供する仕事ではありません。本来はクライアントの事業を深く理解し、共感し、社内で自走できるまで二人三脚で一緒に走り切る存在でありたい。これまでのキャリアを振り返ったとき、本当にクライアントの成長に貢献できていただろうか。規模が大きくなるにつれて、自社の成長のための仕事が増え、お客様に向き合う時間が減っていった。もっと深くコミットすべきだったという反省から、SYNTHESISでは、クライアントに寄り添ったサービスを提供することを最重要事項にしています」(武藤)
具体的には、クライアントの商品やサービスの理解はもちろん、社内にどんなシステムや仕組みがあり、どんな人が働いていて、その評価制度はどのように設計されているのか、組織構造をすべて理解していく必要がある。その過程で必ず、ビジネスを次のステージに進めるための本質的な課題が見えてくると武藤はいう。
「クライアントのビジネスに徹底して向き合っていくと、AIやシステムの導入が有効なケースもあれば、企業文化や働いている人の価値観、人財育成の仕組みや組織構造、時には経営者の考え方に課題があるケースも出てきます。自分たちが売りたいソリューションから発想するのではなく、お客様が真に求めている変革を第一に考えることで、本質的なバリューアップにつながります。」(武藤)
さらに、SYNTHESISでは、AIネイティブのコンサルティングモデルを構築しており、あらゆるコンサルティングの要素にAIを組み込んでいるという。
「AIの発展により、コンサルティングファームの在り方は大きく変わっています。例えば、以前は駆け出しのコンサルタントが長い時間をかけてファクト・データの収集・整理を行っていましたが、AIを活用することで大幅に効率化することが可能になりました。コンサルティングのチーム体制も若手が多かった構成から、経験豊富なメンバー主体の構成に変化し、クライアントの深い理解に根差した提言と改革実行力をより重視するようになっています。また、人事・総務・経理といったミドル・バックオフィスの機能もSYNTHESISではAIをフル活用することで、最小限の要員で対応しています」
探究心と好奇心が、顧客課題の理解につながる

武藤が熱い思いをもって立ち上げたSYNTHESISの特徴のひとつが、多様なバックグラウンドを持つメンバーで構成されている点だ。
現在、東京に続きニューヨーク、シンガポール、香港にオフィスを構え、海外在住のメンバーも参画し、グローバルベースでのミーティングが常に行われている。社員構成も、外資コンサルファームのコンサルタントやパートナー経験者から、マーケティングや営業、データサイエンティストなど異業種出身者、さらに特定分野の研究に取り組んできたアカデミア出身者など、実に幅広い。
採用戦略を担うCPO(チーフ・ピープル・オフィサー)のコリーン・ジョンソンは、マッキンゼーで約20年間、人財育成のスペシャリストとして活動してきた。「国籍や言語に関係なく、誰もがパフォーマンスを出しやすい環境を整えること」が、自身の役割だと話す。
「皆がモチベーション高く働ける環境づくりで欠かせないのは、お互いへのリスペクトです。それぞれの強みを理解し、お互いから学び、感謝の気持ちを持ってコラボレーションできる雰囲気づくりを大切にしています。
多様なバックグラウンドのメンバーが集まっているので、コンサルタントとしての経験には差もあります。一人ひとりの成長ステージを見極め、次にチャレンジしてほしいこと、任せたいプロジェクトを具体的に示すことも大切にしています」(ジョンソン)
コリーンの役職がCPOである背景には、『人をリソースとしてではなく、一人の人間として尊重したい』という武藤の考えがある。その思いにコリーンも強く共感したという。
「人こそが、私たちのビジネスを支える原動力です。ヒューマンリソースという言葉は、人を資源や材料として見てしまいがちです。でも人はリソースではなく、一人ひとりが異なる人間です。みんなバッググラウンドも思いも人間性も違う。『それぞれの人生で、たまたまこの場に集まってくれた。そんな一人ひとりの人間と向き合いたい。』という武藤さんの考えに100%賛同しました」(ジョンソン)
SYNTHESISが求めるのは、情熱と好奇心を持ち、学び続ける意欲、そしてゼロから価値を創り上げようとするアントレプレナーシップにあふれた人だ。たとえば、研究分野で経験を積んできたメンバーを積極的に迎えているのも、その探究心と姿勢に、コンサルティングとの高い親和性を感じているからだ。
「その熱意をお客様のビジネスの理解に注げば、深い共感と価値創造に向けた確かなコミットメントにつながるはずです。社内には、日々チャレンジングな業務に真摯に取り組みながら、大学院で哲学の研究をしているメンバーや、専門領域を深めるために学び続けている人もいます。たとえ仕事に直結していなくても、自分なりに探究していく姿勢が、いざお客様の課題に向き合うときに、必ず発揮されると思っています」(ジョンソン)
なぜ今、SYNTHESISに人が集まるのか

起業当初は、知名度や実績の壁は決して小さくなく、クライアントに選ばれるのかという葛藤もあった。だが武藤のビジョンに共感し、案件を任せてくれるクライアントは着実に増え、現在は大手企業とのプロジェクトが数多く動いている。
「キャリアも背景も様々なプロフェッショナルたちが、本質的なバリューを追求しようと集まっています。業界の第一線にいるメンバーと切磋琢磨できる環境は、非常に刺激的で魅力にあふれています。
5年後、10年後にはビジネスとしての成長ももちろん追求していきながら、若い世代から『あの会社で働きたい』と真っ先に名前が挙がるような存在になりたい。私たちの挑戦が日本のビジネスシーンに新しい流れを生み出し、次世代の才能の可能性を広げる一つのきっかけになればと願っています」(武藤)



