新型コロナウイルスの変異株やその亜系統(派生型)に対するこの5年間の命名は、オデュッセウスの旅のように苦難がしのばれるものとなっている。当初は、まさにそのギリシャの文字を採用したあらたまった命名法にのっとって、その並び順にアルファ株、ベータ株、デルタ株というふうに名づけられていた。けれど、オミクロン株が主流になってからしばらくして、この命名体系は継続されなくなった。その後は、科学者たちが変異株の遺伝的特徴に基づいて付与するアルファベットと数字の組み合わせが標準となり、『スター・ウォーズ』のドロイドのような名前がぞろぞろと続くことになった。
そこでグレゴリー博士のような人たちは、ソーシャルメディアで、それに「アークトゥルス」「クラーケン」「エリス」「ピロラ」といった、覚えやすいニックネームをつけるようになったというわけだ。
ニンバスことNB.1.8.1はすでに、ほかでもない世界保健機関(WHO)の注意を引いている。WHOは5月23日、NB.1.8.1を「監視下の変異株(VUM)」に指定した。これは、スパイクタンパク質にみられる変異と、世界各地で比較的速いスピードで広がっていることに基づく判断だった。
米疾病対策センター(CDC)の報告によると、6月8日から21日までの2週間に、米国の新型コロナウイルス感染者の43%からNB.1.8.1が検出され、LP.8.1(31%)に代わって最も感染者の多い変異株に浮上した。もっとも、これらの数字はかなり疑ってかかるべきだろう。なぜなら、米国ではもはや、新型コロナにかかった患者のかなりの割合が、検査も受けていなければ報告もされていないからだ。
喉の痛みを引き起こす原因はいろいろある
言わずもがなだが、非公式な報告は査読済みの科学論文や、確立された臨床監視システムのデータと同列に扱うことはできない。また、カミソリ刃の喉という症状が、実際にどれほど広がっているのかも判断しづらい。ソーシャルメディアやインターネットによって、ある現象が実態以上に流行しているように見えることもある。一例を挙げれば、数年前、洗剤カプセルを食べる「タイドポッド・チャレンジ」が「流行」したが、みんながみんな洗剤を食べ始めていたわけではもちろんない。


