ビジョンと実行をつなぐ「中間のリアリティ」
平岡:一方で、そうした壮大なビジョンを描くだけでは、人は動けません。ここのバランスをどう考えていますか。
津久井:遠くて大きな未来像、例えば50年後のビジョンを描くだけでは足りない。僕がしばしば担当するのは、数十年後の世界についての議論も踏まえながら、「2030年にはこういう仕事がありそう」とか「この技術の影響でこんな働き方がありそう」といった、より卑近なリアリティを遠い未来との中間に挟むことです。それが遠い未来と現実をつなぐ踏み石になって、ビジョンと実行の距離を縮めてくれる。
平岡:単に「中期的な視野をもちましょう」ということではなく、ビジョンと実行の間に想像できる「人の営み」を挿入する作業のようです。そこにどういう人たちがいて、どういう生活を送っているのか、それを描くこと。
津久井:そのために僕がすごく意識しているのが、ワーディングです。遠い未来を見据えている経営層や企画チームと、現場で日々動いている人たちとの間に共通言語をつくる。単なる説明ではなく、想像できる名前をつけることが大事です。
例えば、「2050年には資源リサイクルに関わる産業がものづくり以上に重要視される世界になる」というビジョンがあるといっても、抽象的な表現ではなかなか届かない。しかし、「2030年ごろからリサイクル技術者が『リジェネレーション・アスリート』と呼ばれ、その知識や技術をスポーツのように競い合うようになるかも知れない」というように、ビジョンから想像できるビジネスの仕組みや職種をあげ、名前まで具体的につける。すると、多くの人が思い描きやすいものになるんです。

平岡:ビジョンの解像度や納得感がぐっと高まります。経営者と現場だけでなく、専門家と一般市民など、視点や前提知識が異なる人々をつなぐ、コミュニケーションの技術でもありますね。
なぜその未来はつまらないのか?
平岡:最後に、私たちがこれから想像力を磨いていくためには、何をすればよいでしょうか?
津久井:今って本当に、未来像があちこちで語られている時代ですよね。政府や企業のビジョン、メディアの記事、AIの予測……どこを見ても「これが未来だ」という言説があふれている。そんな中、「自分も未来を考えなきゃ」と焦る必要はないと思います。自分が考えなくても、たくさんありますから。
大事なのは、それらの未来像を見たときに、例えば「これ、面白いか?」「いや、つまらない」と自分なりの感覚で判断できること。つまらないと思ったら、理由を考えてみる。それが問いになり、想像力が培われる。
僕はこれを勝手に「カウンターフューチャリズム」と呼んでいるのですが、それこそが想像力を育てるうえで、何より効果的なんじゃないかと思います。
平岡:多数派の未来像に従うのではなく、そこに「待った」をかけ、別の角度から未来像を見て、組み立て直す。その営みこそが、AI時代における創造の核心なのかもしれません。
AIには決してできない創造の営み
AIが未来を予測し、あらゆる分野の最適解を提示する今。SF作家、津久井氏の創作活動は、未来構想の本質を示してくれます。
私たち人間には今、AIが提示した未来や答えをどう受け止めるのかが問われています。そのために必要な想像力や問い直す力を磨くプロセスには時間と手間がかかりますが、AIには決して代替できない創造の営み。
それこそが、現代の経営における最も柔軟で根源的な資源につながっていくのかもしれません。


