アート

2025.06.30 16:15

SF作家が語るAIにはできない「未来構想の磨き方」 今、想像力はリアルな手触りで育む

2084年、人類が植物の生理機能を演算に応用する技術を生み出した未来を描く作品『コルヌトピア』の世界像を表現したコラージュ作品(津久井五月作)

人間に必要なのは「問い直す力」

平岡:AIが発達する時代、私たち人間の想像力はどんな役割を担うのでしょうか。津久井さんは、創作にAIを活用されていますか。

advertisement

津久井:はい、ChatGPTはアイデア出しのための壁打ちに活用しています。ブレスト相手としては優秀ですが、「長い話を創作して」となると根性がない。途中からスカスカな話を作ってしまう。でも「こういう設定では何が起こるか?」と尋ねると、発想のヒントになるようなことは、ちゃんと返してくれる。

平岡:なるほど。ではここで重要なのは、人間の「問い直す力」でしょうか。

津久井:AIが出してきたものに対して、「これはリアルか?」「どこかありがちなパターンに囚われていないか?」と問い直す。違和感があれば、もう一度問いを投げる。そのやり取りこそが、想像力を深めるプロセスです。AIにはシミュレーション力はあっても、「問いを生む力」そのものはありません。

advertisement

平岡:人間が追求すべきは、五感や実体験に基づいて問いを立てる力を磨いていくことで、そのためには、リアルな経験をできるだけ多く積んでいかなくてはならないということですね。結果、AIによるアウトプットの精度も上がっていく。

ぶち上げて「議論の半径」を拡張する

平岡:想像力は個人にとどまらず、組織にも問われるものです。津久井さんはSFプロトタイピングを通して、企業とのコラボレーションもされています。具体的にどんな役割を担われていますか。

津久井:日本では、嘘も交えてアイデアを創る、いわば発想を「ぶち上げる」ことへの抵抗感が強いんだと思います。適当なことを言ってはいけないという空気が組織にあって、大企業ほどそれが顕著です。でも、僕が外部から物語として仮説を語ると、それが許される適当さになる。つまり、社内では語れないような想像や、少し逸脱した「ズレ」をつくり、議論を呼び込む「触媒」になるんです。

平岡:欧米との文化的な違いもありますよね。例えば米国の起業家にとっては、未来を語ることが自己表現や使命と結びついています。一方、日本では慎重さが美徳とされ、リスクを伴う仮説やぶち上げは避けられやすい。

津久井:企業から「この技術が社会に与えるインパクトを物語にしてほしい」と依頼されることがあります。でも僕は、依頼内容には直接関係ない、例えば農業などといった別の産業や格差、犯罪といった要素も入れてしまう。そうすることで「議論の半径」が広がる。

平岡:企業が慎重さゆえに踏み込めない領域に、想像の世界が触媒として入り込む。イノベーションの種が、生まれやすくなります。

 「SF的思考とは何か」津久井氏の整理(津久井氏の資料に基づきBCGが作成)
 「SF的思考とは何か」津久井氏の整理(津久井氏の資料に基づきBCGが作成)
次ページ > ビジョンと実行をつなぐ「中間のリアリティ」

文=平岡美由紀

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事