米プロバスケットボールNBAのドラフト会議は6月25日、デューク大学のフォワード、18歳のクーパー・フラッグを全体1位で指名したが、New Balance(ニューバランス)のCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)であるクリス・デイビスは、今から約2年前の2023年にフラッグが大学バスケットボール界のトップ選手となったときに、「この選手を獲得しろ」と部下たちに命じていた。
デイビスの机の上には、その頃、デューク大学の逸材であるフラッグが表紙を飾る『SLAM』誌の最新号が置かれていたことを、New Balance(ニューバランス)のバスケットボール部門を統括するナヴィーン・ロケッシュは覚えている。
当時17歳のフラッグは、その頃すでに卓越したパフォーマンスでスカウトたちを驚かせ、「21世紀最高の新人」と呼ばれていた。そのため、スニーカーブランド各社は、彼がもたらすであろう経済効果に色めき立ったのだった。
昨年の売上高が78億ドル(約1兆1300億円)のニューバランスは、ナイキ(売上高510億ドル)やアディダス(同260億ドル)と比べると資金力では劣勢だが、フラッグの獲得に対しては強みがあった。フラッグは、ニューバランスの工場からさほど遠くないメイン州ニューポートで育ち、子どもの頃から毎年、母親と一緒に工場のセールに出かけていたのだった。
そのため、フラッグとの面会する機会を得たニューバランスの幹部は、競合にはできないアプローチで彼を口説いた。ロケッシュによれば、同社は、彼の故郷の工場で20年働いてきた従業員たちが登場するオリジナルの映像を見せたのだという。
この戦略は功を奏し、ニューバランスはフラッグとの契約を2024年8月に発表した。ただし、スター選手の獲得にここまで力を入れるのは、創業119年の同社にとってやや異例なことだ。実際、1990年代のニューバランスは、「Endorsed By No One(有名人の推薦は要らない)」という風変わりなキャッチコピーを掲げていた。
「ニューバランスは、選手たちが報酬目当てではなく、製品の質そのものに惹かれて自社製品を選んでいることを誇りにしていた」と20年以上にわたり小売分野のアナリストを務めるBCEコンサルティングのマット・パウエルは語る。
「ダッドシューズ」からの脱出
しかし、スニーカー業界の構図が変化するなか、ニューバランスはここ15年でマーケティング戦略を再構築し、アスリートの起用をその中心に置いている。同社は現在、大谷翔平や女子テニス界の大物のココ・ガウフ、NBAのカワイ・レナードなどの著名な選手とエンドースメント契約を結んでいる。



