2024年12月都内某所で開かれたあるイベントで、ゴールドウインを率いる渡辺貴生は心を高ぶらせていた。テーマはサステナビリティ。渡辺は10代の環境活動家、福代美乃里とのトークセッションに登壇。彼女から「環境が大切だというが、どのくらい本気なのか」「なぜ事業成長が必要なのか」と突きつけられた。
ゴールドウインはアウトドアブランド「ザ・ノース・フェイス」で躍進した会社だ。アパレルは大量につくるほど環境負荷が大きくなる。若き活動家の疑問はもっともだった。
渡辺は「地球がなければビジネスは成り立たない。環境を守るだけではなく、リジェネラティブ(再生)が私たちの存在意義」と答えた。
同じことは投資家やメディアにも説明している。にもかかわらず、なぜ熱い気持ちになったのか。
「福代さんは自分でインドにいって児童労働の実態を見てきた。行動している人とそうでない人ではリアリティが違います。彼女に対して、僕がザ・ノース・フェイスで40年以上やってきたことを偽物だと思われたくなかった。その思いを込めて話したら、自分のなかに詰まっていたものがすべて出た気がしたんです」
渡辺の言葉にうそがないことは、富山県南砺市に開業予定の公園「Play Earth Park Naturing Forest」からもよくわかる。これは、豊かな自然やスポーツを通して自然との共生を体験できる施設で、同じ目的意識を共有する県、市との連携で大規模な開発が進む。
「中期経営計画は長くても5年が普通。しかし私たちは30年先を見て投資をしています。子どもたちが人間らしい暮らしとは何かと考えるきっかけになればいい。それが次世代に自然をつないでいくことになる」
短期利益に振り回されずに計画を立てられるのは、既存ブランドが安定的に成長しているからだろう。ザ・ノース・フェイスは過去10年で売り上げが約5倍に。その好調さに支えられ、24年3月期の純利益は242億円強と、3期連続で最高益を更新した。
30年先を見据えた計画を立てられるのは、自然との共生は将来も変わらず求められる価値観だと確信していることも大きい。
渡辺はアイビールックで身を固めた都会派少年だった。しかし高校生のころに雑誌『MEN'S CLUB』でザ・ノース・フェイスを知り、大学卒業後は代理店だったゴールドウインに入社。思いがかなってザ・ノース・フェイスの担当になったのは入社3年目だ。
「最初の週末にさっそく山に連れていかれました。50kgもの荷物をのせた“背負子”を担いで登ったら、背中の皮がむけちゃってね。でも、山頂についたら僕の歓迎会が始まって、翌日は岩登り。これが楽しくてハマりました」
その後、単に自然を楽しむだけでなく、環境保全の意識をもつようになったのもブランドの影響だった。



