「5~6人の小さな事業部でしたが、先輩たちは枕言葉のように『ザ・ノース・フェイスの世界は──』と世界観を語っていました。創業者のひとりハップ・クロップに会ったときも『自然環境を守ることが自分たちの仕事』という。その考え方を読み物にしてカタログに連載する仕事を担当するうちに、自分のなかにも環境意識が根づいていった」
ザ・ノース・フェイスから教わったことがもうひとつある。渡辺が配属になったのは、輸入から日本での生産に切り替えた時期。自ら商品企画したが、小売店から「顧客はメイド・イン・USAを求めている」と言われて、サンフランシスコに飛んだ。
「日本人は懐古主義な商品が好きだからそっちでつくってくれと頼んだら、当時のアメリカの社長に『なぜ新しいデザインにしないのか。おまえの仕事は何だ』と問われました。確かに自分がやろうとしていたのはコピーだった。それからは、自分は世界にないものをつくろうと決めました」
その後、渡辺がデザインしてスタンダードになった製品はいくつもある。例えば山のアウターは遭難リスクを下げるために目立つ色が使われていたが、日常で着てもコーディネイトしやすいように黒のアウターをつくった。専門店に「山をなめるな」と拒絶されたため、直営店をつくり販売したところ、アウトドア好きが街でも着始めた。このとき始めた直営店戦略が、ザ・ノース・フェイス躍進の土台になっている。
経営者となった今、渡辺は「社会のデザイン」にも挑戦している。15年には、スタートアップのSpiberに30億円を出資。構造タンパク質繊維を共同開発して、ポリエステル以来の繊維革命を起こそうとしている。
「ポリエステルは年間5500万トンつくられています。その5%を代替するだけでも環境に大きなインパクトがある。これは世界を変える仕事です」
目指す山は高いが、渡辺なら一歩一歩力強く登っていくに違いない。
わたなべ・たかお◎千葉県出身。1982年にゴールドウインに入社。取締役執行役員ザ・ノース・フェイス事業部長、取締役副社長執行役員を経て、2020年4月に社長就任。27年開業を目指すPlay Earth Park Naturing Forestの陣頭指揮に当たる。


