放送作家・脚本家の小山薫堂が経営する会員制ビストロ「blank」に、JR東日本代表取締役社長の喜㔟陽一さんが訪れました。スペシャル対談第18回(後編)。
小山薫堂(以下、小山):JR東日本が現在いちばん注力しているサービス、もしくは方針は何ですか。
喜㔟陽一(以下、喜㔟):いま、「Beyond Stations構想」という大きなプランに取り組んでいます。これまでのコンセプトは「集う駅」で、エキュートのような駅中ビジネスを広げてきたわけですが、これからはお客様の地域のさまざまな生活やニーズを解決することを目指し、コンセプトも「つながる駅」へと転換しました。
小山:つながるというと?
喜㔟:例えば医療クリニック。西国分寺の中央線のホームにクリニックを設けたんです。電車を降りたらサッと検査を受けたり、注射を打ったりできる。これを地方の中小規模の駅にも広げて、ネットワーク化したいと考えています。また、那須塩原駅の西口高架下に「エキナカこども食堂」を設置しました。地産地消の新鮮な食を提供して子どもたちの食育を促すほか、オンライン英会話などの教育プログラムも実施しています。
小山:素晴らしいですね。僕も先日知ったのですが、エキュート品川には「関谷スパゲティ」という店があって、平日は7時から美味しいパスタが食べられるんです。これまで新幹線に乗るときはギリギリで駅に向かい、早く着いたら着いたでアプリで一本早い便に変更していたのですが、むしろ30分くらい早めに行って、エキュートで食べたり遊んだりするのも楽しい過ごし方だなと。「駅」にはいろんなテナントの可能性が秘められているんですね。
喜㔟:その点で言うと、新潟の燕三条はご存じのとおり“ものづくり”の拠点ですが、工場が点在していてビジネスマッチングがなかなか成立しなかった。そこで燕三条駅構内に、ものづくりの工場とお客様のニーズをマッチングする施設をつくりました。
小山:いわゆる街のコンシェルジュ的な。
喜㔟:ええ。2年前にスタートして、約100件の商談がまとまりました。
小山:それはシンプルに、街のためですか。
喜㔟:賃料はいただいていますが、むしろ地域の産業が振興し、雇用が生まれれば、我々のモビリティも当然伸びていくであろうという、ビジネスモデルです。東京駅で出張イベントを開催した際、商談で出たコンセプトを燕三条に持ち帰って試作品をつくり、新幹線で運ぶことで、最短で契約が成立したことも。鉄道ネットワークをつなげると、そういうビジネスもできるのです。
通過せず、目的を叶える場所へ
小山:日本はこれから人口が減少する一方で、当然旅客数も減っていくわけですが、これに関してはどうお考えですか。
喜㔟:鉄道も、お客様のニーズをしっかりと受け止めれば、まだまだ成長産業だと思います。この3月の第15次ダイヤ改正から、東京の中央線でグリーン車サービスが始まりましたが、我々の想定では80億円の収益を見込んでいます。昨年末には「Suica Renaissance」も打ち出しました。タッチや事前チャージが必要、チャージの上限が2万円というご不便を解消したうえで、ウォークスルー改札を目指します。例えばですが、ルミネ新宿で5,000円のお買い物をすると帰りのグリーン券を提供するというサービスもできます。Suicaを、あらゆる世代のお客様が利用できるユニバーサルな「生活のデバイス」にしたいと考えています。
小山:いや、これはいますぐJRE BANKで口座をつくらないと(笑)。



