贈り、贈られたモノや体験は、人生を変えるほどの力を持つことがある。企業のトップ、リーダーたちが経験した、モノや体験に介在する特別な思い入れを紹介する。自身の生き方、サクセスストーリーにも影響を及ぼしたであろう「GIFT」の逸話には人間味あふれる姿がある。希薄化も言われる現代の人間関係とは異なる、特別な関係だ。
THE GIFT #25
大松 敦
日建設計 代表取締役社長
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社長就任時に贈られたモンブランの最高峰マイスターシュテック(右)。
アイデア出しに活躍するスターウォーカー(左)。
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「建築家は手で考えるものだ」。大学の建築学科の授業で登場したこの言葉に疑問を感じていた。スケッチをしながら検討を深めるといっても、それは思考を書き出し整理するに過ぎないのでは、と。しかし課題をこなすうち、明確なイメージがなくともスケッチを重ねることで次第に設計案が浮かび上がってくることを体得した。
今も私のスタイルとなるこの「思考の源泉」に、2本のモンブランのボールペンが活躍する。ネーム入りのものは、社長就任時に当時の部下たちから贈られたものだ。書類へのサインや経営会議資料のチェックなどに利用しているが、彼らの思いが宿るようで、「後進のためにも経営判断を間違えてはならぬ」と、常に心が律せられる。
もう1本は、ドバイ現地法人設立時のパーティで、現法メンバーから誕生祝いとして贈られた。移動中にアイデアを書き留めるため、常にノートとともにバッグに収まる。イノベーションを推進するもととなる存在だ。手を動かすと思考がより直感的かつ創造的になり、抽象的なアイデアも具現化できるように思う。この2本は、私にとって欠かせない手の道具なのだ。
おおまつ・あつし◎1960年生まれ。83年に東京大学工学部建築学科を卒業し、日建設計に入社。企画開発室長、プロジェクトマネジメント室長を歴任し、2011年に執行役員、15年に常務執行役員を経て、21年に代表取締役社長に就任。近年はスマートビルや環境改修事業などイノベーション事業をけん引する。



