日本の国会や地方議会の女性議員の割合は、世界的に見ても非常に低い。それは、有権者が女性候補を嫌っているからではなかった。むしろ日本の一般的な有権者には、男性候補以上に女性候補を好む傾向がある。それなのに女性候補が当選しないのは、有権者の心理に隠れている差別の壁のせいだった。
これまで日本では、女性議員の数が増えない原因に関して候補者擁立の制度やプロセスに注目する研究が中心的に行われてきたが、明治大学と早稲田大学による共同研究チームは、有権者の視点に立った研究を行ってきた。そして今回、2回にわたるオンライン調査から、ある有権者の行動パターンが浮かび上がった。
調査は、それぞれ国勢調査にもとづき偏りのない2000人前後の有権者を選び出して協力してもらった。実験参加者には、性別、政党、年齢、経験などの属性をランダムに組み合わせた架空の候補者を男女ペアで示し、どちらが政治家としてより「望ましいか」、「選挙で勝利しそうか」を選んでもらう。

その結果、平均的な日本の有権者には、男性候補よりも女性候補のほうが好ましいと感じる人が多く、決して女性に対して差別意識があるわけではないことがわかった。しかしそれに対して、選挙に勝てそうだと期待が持てるのは、女性候補よりも男性候補のほうが多かった。ここに、好きだけど期待はしないという感情のズレが生じていたのだ。これを政治学では「選好―期待ギャップ」と呼ぶ。平たく言えば、理想と現実のギャップだ。
これが、好ましいと思っている候補者がいても、その人は当選しないだろうと想像し、当選の可能性が高い人に乗り換えてしまう「戦略的差別」の一因となり、日本の女性議員が増えない要因のひとつである可能性が示唆された。この傾向は、国政選挙、地方選挙を問わず同じように表れた。また興味深いことに、女性やリベラルな考え方を持つ人ほどギャップが大きくなる傾向も見られた。
アメリカでは選好―期待ギャップや戦略的差別に関する先行研究があり、2020年の米大統領選挙の民主党予備選挙では、戦略的差別にもとづく行動パターンが認められたとの報告がある。選挙制度や社会的背景の違う日本にもそれが当てはまるかどうかは不明だったのだが、この研究で日本にも同じような選好―期待ギャップがあることが判明したわけだ。
この結果を受けて研究チームは「日本政治におけるジェンダー格差解消のためには、女性候補者への『選好』を高めるだけでなく、じつは日本社会における男女平等意識が決して低くない、という『期待』をアップデートしていく必要もある」と話している。また、日本社会のジェンダー格差ばかりを強調し、人々の意識の変化を促さなければ、かえって女性候補への支持を萎縮させる恐れもあると警告している。私たちには、戦略的差別という無意識にジェンダー平等を阻む行動を取っているかもしれない。そのことをよく考えるべきだろう。



