科学者らは音楽療法がどのような状況でいかに効果を上げるのかについて徐々に理解を深めている。よく知られた音楽療養の1つにアルツハイマー病や認知症のセラピーでの音楽の使用があり、音楽を聴くことで記憶の呼び起こしを促すことができる。今回、新た発表された研究で、聴く人の感情に訴える音楽が特に効果的であることがわかった。
私たちは普段の生活で音楽を耳にすることが多い。映画やテレビ番組のバックグラウンドで流れ、スーパーのスピーカーからも聞こえる。そして外出時にはお気に入りのプレイリストを聴くことが多い。このように、音楽は私たちの日常の大部分を占めており、これまでもそうであったように音楽は思い出の大事な部分を形成している(好きな音楽である必要はない。筆者は25年前に初めて米ニューヨークを訪れたとき、ニューアーク空港からマンハッタンに向かうシャトルバスの中で流れていたシャギーの『It Wasn't Me(イット・ワズント・ミー)』をいつも連想する)。
音楽は記憶を呼び起こすことができるため、アルツハイマー病の療法の1つとして活用されている。だが効果を上げているとはいえ、音楽が記憶を呼び覚ますのに役立つとはどういうことなのか、研究者らはまだ完全には理解していない。
有力な説の1つは、音楽との感情的なつながりが関係しているというものだ。この結びつきは一般的になじみのある曲や好きな曲で強くなる。音楽の好みは人それぞれだが、感情を揺さぶる曲を聴いたときの脳内の反応に個人差はほぼなく、これについてはよく研究されている。例えば、ある研究では、単語を暗記するというタスクの直後に馴染みの強い音楽を聴くと単語を覚えやすくなることがわかった。
だが記憶の大半は単なる単語の羅列ではない。出来事や場面全体を記憶するには、細部と全体像の両方が関係している。このような記憶の異なる側面に音楽はどのような影響を与えるのだろうか。これが米ライス大学のケイラ・クラークと米カリフォルニア大学ロサンゼルス校のステファニー・レアルの研究テーマだった。



