金の保有量を拡大する途上国
金の購入の多くは途上国で行われている。トルコ、インド、中国、ブラジルなどの中央銀行は近年、金の保有量を拡大している。これらの国々の多くは、ドルを基盤とした金融制度を安定性よりもむしろ脆弱(ぜいじゃく)性の源と見なし、それに代わる手段を模索しているためだ。
アジアについて考えてみよう。米CNBCは、東南アジア諸国連合(ASEAN)の加盟国が、ドルへの依存度を軽減するため、現地通貨による貿易決済を推進する地域計画を実施している様子を報じた。中国は、銀行や金融機関の国際取引を円滑化する「国際銀行間金融通信協会(SWIFT)」に代わる独自の人民元決済網「国際銀行間決済システム(CIPS)」に力を入れている。中国は今月、このシステムに新たに6つの外国銀行が参加すると発表し、影響力をアフリカ、中東、中央アジアに拡大した。
制裁リスクの回避が金保有の傾向を加速
2022年にロシアがウクライナに侵攻すると、西側諸国の制裁により、ドル建て資産を過剰に保有することへのリスクが浮き彫りになった。ECBによると、1999年以降、中央銀行の準備資産に占める金の割合が年間で最も増加した10カ国のうち5カ国は、当年かその前年に制裁を受けていた。
多くの新興国にとって、金は一種の地政学的な保険として機能する。保有外貨やSWIFTへのアクセスはいつでも凍結されるリスクがある一方で、国内の金庫に物理的に保管されている金にはそういった制裁のリスクがない。
米国人投資家にとっての意味
誤解のないように言っておくと、ドルは当分は安泰だろう。ドルは依然として貿易と債務市場を支配しており、世界全体の決済の約半分を担っている。他方で、その優位性は徐々に失われつつあり、その証拠は次第に積み重なっている。
つまり、米国の投資家、特に退職した人や退職が間近な人は、ポートフォリオが単一通貨にどの程度偏っているかを慎重に見直す必要があるということだ。中央銀行がドルに対するリスクを金や外貨で回避しているように、個人も同様の対策を講じるべきかもしれない。
筆者はかねてより「10%の黄金律」を提唱してきた。ポートフォリオの10%を金や金関連の投資に配分することを検討しよう。うち5%は金地金に、残りの5%は高品質な金鉱株に割り当てるのだ。


