機械工学エンジニアとしてのマーク・ローバー氏のキャリアは異色だ。NASAのジェット推進研究所では火星探査機「キュリオシティ」の開発に携わり、その火星着陸に成功。その後、プロダクトデザイナーとしてアップルに在籍した。そんな輝かしい経歴を持つローバー氏が、次に選んだ活躍の舞台はYouTubeだった。
2025年の6月時点、ローバー氏のYouTubeチャンネルには6920万人の登録者がいる。2021年には子どもから大人まで楽しみながら学べるSTEM教育キットをCrunchLabs(クランチラボ)ブランドから立ち上げた。仲間たちと運営するCrunchLabsのYouTubeチャンネルも登録者数が193万人を超え、現在も順調に増え続けている。
極上のエンタメを通じて「科学の楽しさ」を伝える
筆者は今年の4月下旬に米国YouTube本社のプレスツアーに参加した。その時にサンフランシスコ郊外にあるCrunchLabsのスタジオに足を運び、YouTuberとして活躍するローバー氏の生の声に触れた。
ローバー氏は人前に出るのが苦手な性分で、誕生日に『ハッピーバースデートゥーユー』を歌われるのも嫌いだったというが、その一方で、彼は科学に対する人並み外れた情熱を持ち、科学(サイエンス)を通して得られる感動を多くの人に伝えたいといつも考えていたという。この情熱こそがYouTubeクリエイターとしてのローバー氏を駆り立てている原動力だ。
ローバー氏はコンテンツを制作する時にはいつも、サイエンスの堅いイメージを打破することに挑戦している。「子どもに苦手な野菜も食べてもらえるように、目を引く華やかな料理に野菜をさりげなく隠すような手法」を、ローバー氏はこれまでの動画制作の経験を通じて編み出したという。
例えば彼が15トンのゼリーのプールで泳ぐ『World's Largest Jello Pool - Can you swim in Jello?』という動画はこれまでに1億8000万回も再生されたMarkRoberチャンネルの人気コンテンツだ。タイトルだけを見るとエンタメ色が強い動画のように思えるが、実際にはさまざまな角度からサイエンスを学べる構成になっている。
『Egg Drop From Space』も再生回数1億3000万を誇る人気コンテンツだ。ローバー氏は「高校の物理コンテストでよくある『卵を割らずに落とす装置をつくる』という課題に、僕たちは『宇宙レベル』で挑戦しようと思い立った」という。高度12万フィート(約36キロ)から落とした卵を割れないようにするため、ローバー氏はNASA時代に培った火星探査機の着陸技術を応用した。その結果は……ぜひ動画で確かめてほしい。
ローバー氏は「ありがたいことに、僕は今でも12歳の頃の感性を持ち続けています。だからこそ、ワクワクするようなアイデアをひらめいて、子どもだけでなく大人にも刺さるコンテンツが作れるのでしょう」と笑う。


