欧州では14世紀に始まったルネサンスが芸術や科学、思想の世界を一変させる大変革に火をつけ、近代文明の基盤が形作られた。ルネサンス期の三大発明には活版印刷・羅針盤・火薬があり、地動説も発表され、その後の世界に影響を与えている。
そして今、我々はこれと同様の大きな転換点を目撃している。これを牽引するのが、AI(人工知能)、バイオテクノロジー、量子テクノロジーの進展、そして世の中に広がるイノベーションを重視する文化だ。
現在起きている出来事は、既存の価値基準を次々と打ち砕いている。しかもこれは、ひとつの業界や地域、集団に限られたものではない。イノベーションは民主化され、分散化され、ますます人間中心の度を高めている。我々は多くの意味で、「現代におけるルネサンス」がいつ起きてもおかしくない状況にあると言っていいだろう。
我々が新しい時代に入りつつあることを示す6つの兆候と、このチャンスを捉えて成功につなげるために、個人や企業ができることについて、以下に解説しよう。
1. 創作ツールの民主化
15世紀に活版印刷が「知識の民主化」をもたらしたのと同じように、今日のAIツールは、創作活動の過程そのものを民主化している。Anthropic(アンソロピック)やOpenAI、グーグルといった企業により、今やインターネットに接続できるすべての人が、洗練されたAIを手にできる。今では、カンザス州の片田舎に住む小規模事業者も、2年前には大手テック企業しか使えなかったAI機能を活用できるようになった。
こうした事例のひとつが、Jasper AI(ジャスパーAI)だ。同社が提供するサービスによって、10万社以上の企業が、高額の費用がかかる広告代理店と契約しなくても、プロレベルのマーケティングコンテンツを制作できるようになった。あるいは、Canva(キャンバ)のAIを用いたデザインツールは、プロのデザイナーではない多数の人たちを、優秀なビジュアルクリエイターに変えた。その結果としてもたらされたのが、私たちが今目の当たりにしている、起業の爆発的な増加と、予想もしなかった方面からのイノベーションだ。
Midjourney(ミッドジャーニー)やDALL-E(ダリ)といった画像生成AIサービスも、ビジュアル作品創作の世界に革命的変化をもたらした。一方、GitHub Copilotは、それまで十分な専門知識を持っていなかった人たちにも、プログラミングの門戸を開いている。
創作活動に関する障壁が崩れ落ちたことで、人々が持つ創意工夫の才気がまるで洪水のように、隙間を埋めるべく押し寄せている。



