2. 科学技術の急速な進化
我々はもはや、病気の治療にとどまらず、エンジニアリングの力で「健康を作り出す」ことに着手しつつある。
遺伝子編集ツールCRISPR(クリスパー)の正確性は急激に高まっており、鎌状赤血球症や遺伝性の視覚障害の有望な治療法が生まれつつある。
これと並行して、グーグルのDeepMindで開発されたAlphaFold(アルファフォールド)などのAIを活用したプラットフォームが、これまで解決が不可能だった問題を解消に導きつつある。具体的には、ほぼすべての既知のタンパク質の立体構造を予測し、これによって創薬の加速という成果を挙げている。
また、Insitro(インシトロ)やRecursion(リカージョン)といった企業は、AIを用いて細胞の挙動をモデリングし、革新的な化合物を発見しており、これによって、製薬企業の研究開発サイクルを効率化・短縮化している。
一方、イーロン・マスク率いるNeuralink(ニューラリンク)をはじめとするニューロテック系のベンチャー企業は、生物学とコンピュータ科学のあいだにある壁を突き崩し、脳性マヒやうつ病、認知能力の低下といった疾病の新たな治療法を探っている。
生物学をプログラム可能なソフトウェアのように扱うGinkgo Bioworks(ギンコ・バイオワークス)のような企業が登場しているほか、そのギンコに買収されたZymergen(ザイマージェン)は、生物工学の手法の自動化で先陣を切った。こうした技術の進歩は、個別に進んでいるわけではなく、お互いに影響を受けながら、前例のないほどのスピードで進んでいる。
3. 「デジタル労働者」の誕生──AIがツールではなく同僚になる時代に
非常に重要なシフトが起きつつある。人間が、自分の担当する仕事のスピードアップを図るためにAIを利用する形から、一連のワークフローを独力で遂行できるAIと人間が共に業務に取り組む方向に、仕事の在り方が変わりつつあるのだ。
こうした「デジタル労働者」という概念が今、本格的に支持を集めつつある。「AutoGPT」のようなAIエージェントや、LangChain(ラングチェーン)などのオープンソースのフレームワークはすでに、自律型のマルチステップ推論やウェブ閲覧、ファイル管理や意思決定を行う能力を持っている。
このようなエージェントは、フォームの記入やリポートの生成、市場調査の実施、さらには契約内容の交渉までできるようになっている。つまり、単に質問に答えるだけでなく、業務をこなせるのだ。
Adept AI(アデプトAI)やHyperwrite(ハイパーライト)のような企業は、本格的なAI従業員を構築している。これは、SaaSプラットフォームにログインし、複雑な指示に従い、報告を返すデジタルワーカーだ。さらに、Relevance AI(レリバンスAI)やCognosys(コグノシス)をはじめとするエンタープライズ向けのオーケストレーション・ツールは、企業が複数のAIエージェントからなるチームを、まるでデジタル周りを担当する部署のように、連携させて用いることができるようサポートを行なっている。
これは、ビジネスの根幹に関わるシフトだ。デジタル労働者が大規模に導入されれば、企業の組織構成、仕事の流れ、事業全体が再考を迫られることになる。近い将来に、7割が人間、3割がデジタル従業員からなるチームが結成されるようになるかもしれない。最も生産性が高い「従業員」は、昼休みなどをとらない存在になるかもしれない。


