開発者である岩尾は現在、これらを経営現場で活用している。24年11月には、東証スタンダード上場のTHE WHY HOW DO COMPANY(以下ワイハウ)の社長に就任。同社は慢性の赤字体質だったが、25年8月期中間期には前年同期比で売り上げを倍増、営業利益を黒字転換させた。
「ワイハウはグループ8社からなりますが、以前は本社がグループ会社に対して『数字があがってない』とKPI(重要業績評価指標)管理するだけで、現場が委縮する面がありました。短期的に数字を追うやり方は価値有限思考にハマりやすい。グループ会社間で情報交換する場をつくったところ、助け合って価値創造するケースが少しずつ出てきました」
三種の神器も日々使っている。グループ会社のひとつにシステム開発を行うWHDCアクロディアがある。同社は成長のために新規事業をやるか、無駄なコストを抑えるために新規事業を諦めるかの二択の間で揺れていた。
「いっけん対立する選択肢ですが、『問題解決の三角形』で整理すると、投資を抑えて新規事業をやる道──外部から新規事業案件を取ってきてエンジニアを充てるやり方があることが見えてきました。もちろん一発で答えは出ません。このときも新規事業案件を誰が営業して取ってくるのかという新たな問題が浮上。『問題解決の三角形』を繰り返し使い、なんとかスタートにこぎつけました」
外から来た経営学者が三種の神器の活用をいきなり呼びかけると、社員の反発を招きかねない。そこで勉強会などは行わず、現実の課題に対して「こういう考え方でやってみたら」と一緒に考えるスタイルで伝授。このやり方も、理論だけではなく実践を重視してきた岩尾らしい。現在は「半分くらいの社員が使いこなせるレベルになった」という。
岩尾が三種の神器を普及させたい相手はビジネスパーソンに限らない。冒頭に話したように若者もターゲットだ。
「人は一人ひとりが自分の人生の経営者。人生の問題を自分でマネジメントする発想をもてば、周りに対するイライラや閉塞感はスーッと消えていきます。経営をうまく自分の人生に取り込んでほしいですね」
いわお・しゅんぺい◎慶應義塾大学商学部准教授、THE WHY HOW DO COMPANY代表取締役社長。慶應義塾大学商学部卒業、東京大学大学院経済学研究科マネジメント専攻博士課程修了、博士(経営学)。24年同社社長に就任。著書に『経営教育』『世界は経営でできている』『13歳からの経営の教科書』など多数。


