お金だけが価値ではない、価値は無限に生み出せるというと、学者が唱える机上の空論のように響くかもしれない。しかし、岩尾は東京大学大学院時代に起業して価値無限思考を実践。「従業員3人の小さな会社ですが、これまで12年ずっと増収増益」と、実務を通して価値創造の手法を磨いてきた。
また、実践を続けるうちに、価値無限思考をベースに置きつつも、価値有限思考で身を守らなくてはいけない場面があることを知った。
「みんなで価値をつくろうとオープンにやっていると、価値有限思考の人が寄ってきて価値を奪おうとしてくるんです。そこから自分や仲間を守るには、おかしな人から逃げたり、いざというときは奪い合いの手法で戦うことも必要です」
最近も身構えたことがあった。あるネット討論番組から出演依頼があった。「論破ブームは尊厳の奪い合い。『自分のほうが賢い』とマウントしても、尊敬の総量は減ってしまう」と考えていた岩尾は出演を固辞。しかし「出方を考えますから」と繰り返し頼まれて、最終的には岩尾の書いた台本通りに進行することで出演を了承した。
「ところが本番は台本無視。それどころか裏台本があり、私が元の台本で『こういう反対意見もある』と紹介した内容を、あるタレントがさも自分の意見かのようにぶつけて攻撃してきました。もともとこちらが提供した内容だから反証の準備はしてきたし、そもそも私は弁論部出身。説明したらわかってくれましたが、奪い合いの世界に対して油断してはいけないとあらためて思いました」
「価値創造三種の神器」で対立を乗り越える
奪い合いになりがちな社会で、どのように価値創造すればいいのか。岩屋が開発したのが「価値創造三種の神器」と名づけたフレームワーク群だ。
ひとつ目は、未来のビジョンを描く「未来創造の円形」。これは自分の欲望を「奪う」から「創る」へ、そして利己から利他へと変換して、周りから応援してもらえるものへと発展させるツールだ。ふたつ目は、いっけん対立して袋小路に陥っている問題について、創造的なかたちで対立を解消して問題解決に導く「問題解決の三角形」。3つ目は、自らを縛りつける過去や現在のマイナスな出来事をプラスに転換する「七転び八起きの四角形」だ。
これらは岩尾がゼロから考案したものではない。「未来創造の円形」は稲盛和夫の京セラフィロソフィー、「問題解決の三角形」はトヨタ生産方式やエリヤフ・ゴールドラットの制約理論、「七転び八起きの四角形」はピーター・ドラッカーの経営思想がベースにある。ただ、下敷きになった経営思想・経営技術はそれぞれ観念的だったり複雑だったりしてとっつきづらい。そこで誰でも使えるようにフレームワーク化。具体的な使い方は欄外で紹介したので参考にしてほしい。


