キャリア・教育

2025.06.30 13:30

オードリー・タンから10代へ、「Difference(相違)を友人に」

オードリー・タン|前台湾デジタル発展省大臣

──近い将来、若い世代はIT技術のおかげで、どのような学習体験が得られるとお考えでしょうか。私は常に、新しいテクノロジーはFast(速く)、Fair(公平で)、Fun(楽しい)ときに普及すると言っています。

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学びにおけるFast(速さ)は、素早いフィードバック・ループです。以前は、人がアイデアをかたちにしたいと思ったとき、Pythonプログラミング言語を学ばなければならなかった。すでにレゴブロックのようにリミックスできるスクラッチゲームがあり、プログラミングのハードルが下がっています。しかし、バイブコーディングの登場により、言語モデルに話しかけるだけで、あるゲームが別のゲームに変化します。これは以前よりもはるかにスピードが速い。AIはこのように学習に寄与します。

Fair(公平さ)においては、オープン・バッジを共有することができます。関係のない別の管轄区域でひとつのコースを修了した場合、別の地域でも修了したとみなされ、関連するコミュニティで統合可能です。台湾では、誰でもそのような認証情報を発行できるデジタルIDウォレット、DIWプロジェクトをwallet.gov.twで展開しています。例えば、MITが発行したあるコースの修了証は、ヨーロッパのウォレットと相互運用する台湾のウォレットで認識され、もし日本でも導入されれば、日本のウォレットでも認識されるようになります。

そして最後にFun(楽しさ)は、実際に目的を達することに見いだされます。それも、おもちゃの課題解決ではなく、実社会に影響を与えている、例えば議論が多く、分断が生まれているような課題を解決するのは、とても楽しいことです。そこで私たちは、目的に基づいた学習(Purpose Based Learning)と言っています。単なるプロジェクトではなく、目的となるプロジェクトこそが楽しいのです。

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Indifference(無関心)が敵

──学びについて、あなたの個人的体験も踏まえたアドバイスはありますか?

私は、生まれつき心臓病がありました。12歳までは、コインを投げるような気持ちで眠りについていました。うまく着地しなければ、目覚めることができない、というような。4歳のときに医師から、12歳の手術まで生きられる可能性は50%だと言われました。ですから死ぬ前に何かを残そうと思い、毎晩テープレコーダーに、後にはフロッピーディスクに、その後はインターネットに、下書きやプロトタイプ(試作品)を書き込みました。完成させる時間はありませんでした。ちょうど『PLURALITY』の著作のように、アウトラインの段階で、世界に発信しました。例えば、第2章に台湾の歴史について書きました。

正しく理解するのに困難を極めましたが、非常に早期の段階の草稿を公開しました。すると「台湾の歴史はそうではない」などの意見がありました。なぜなら、とても議論が多いテーマですから。ある人は第二次世界大戦に勝ったと思っているし、ある人は負けたと思っている。だから、私たちはあらゆる批判を受け入れ、それらを融合し、台湾の歴史をより豊かで多元的なかたちで描写しようとしています。

完璧主義は、コラボレーションを阻みます。不完全さを受け入れ、自信のなさなども含めてドラフト形式で公開してみるといいでしょう。レナード・コーエンの歌にある「すべてのものにはひびがある。そこから光が入る」という言葉のように。

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文=岩坪文子 写真=平岩 亨

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