──あなたと台湾のシビックテックが主導したオープンソースの辞書プロジェクト「萌典/MoeDict」(※2)はどのようなプロジェクトでしょうか。
このサービスには、16万の中国語エントリー、2万の台湾語エントリー、1万4000の客家語エントリーがアップロードされている、多言語のインタラクティブなオンライン辞書です。幅広いコミュニティの執筆スペースをサポートするだけではく、異なる言語や文化間の交流プラットフォームとしても機能します。教師だけでなく、生徒やその親も編集に参加できます。「萌典/MoeDict」の派生プロジェクトとして、台湾の参加型台語辞典「I Taiyu(台語)」を制作しました。台語は非常に古く伝統的な言語ですが、常に新しい言葉が生まれています。例えば、人々は、ポケモンのキャラクターに新しい創造的な台語の名前をつけることができ、賛意を示すこともできます。都市辞典のように、人々は辞書を共につくり、共に考え、伝統的な言語を保存しながら新しい命を吹き込むことができるのです。
着地を極論ではなく中間地点に
──著書のなかでは、20 世紀前半の米哲学者で、進歩的な民主・民衆主義者のジョン・デューイ(※3)と台湾の深い関係にも触れられていました。彼は公衆が単なる集団ではなく、相互作用を通じて、新たな価値観や知見を創造していく存在とする「創発的公衆」を唱えました。現代のテクノロジーで、どのように実現できますか?
ジョン・デューイは共通に見いだされる問題の周縁に、大衆が結集する社会のダイナミズムを発見しました。今日の私たちの課題は、インターネットという大きなスケールで、両極端な極論の炎上に押し流されることなく、そのような大衆を出現させることです。我々は拡散を極論に着地させるのではなく、発見されることが難しい中間領域に着地させるプロ・ソーシャル・メディアを考案しました。極論は注目されやすく、センセーショナルなので拡散するとよく言われます。しかし、より驚くべきバリデータ(検証)は、あなたの敵だと思っていた人が、重要な問題においてあなたと同意見であることです。2015年台湾ではPol.is(※4)というシステムを使い始めました。Uber導入問題の解決のために、例えば既存のメーター料金を下回ることなく、価格検索を可能にするなどの中間地点が発見され、見つけた人に拡散力を与え、橋渡しボーナスを付与しました。実現すれば、共通の課題は解決される。タクシー派であろうと、ウーバー派であろうと、このような集合写真を見ると、コミュニティ間でのつながりをより強く感じるでしょう。これこそが、非共通基盤から生まれる「創発的大衆」です。
台湾では10代も多くこのPol.isに参加していますし、今回の来日で講演した東京都立大学でも、実際に300人がリアルタイムでPol.isに参加し、都営地下鉄アプリについて議論し、AIファシリテーターが議論の共通点を見いだしました。
萌典/MoeDict (※2)台湾のシビックテックgov0(零時政府)によってつくられたオープンソースのオンライン辞書プロジェクト。国語辞典の著作権を台湾教育部がフェアユースの範囲で提供し、オープンソースの共同編集文化と正式な教育システムとの相互運用性が実証された。台湾のTAIDEなどのAIモデルの開発にも価値貢献しているという。
John Dewey (※3)哲学者。1859-1952。1919年に国民党を結成した孫文と同年に出会い、中華民国の思想に決定的な影響を与えたという。人間の自発性を重視した問題解決学習を理論化した教育者でもある。1927年の著作『公衆とその諸問題』で「創発的公衆」の政治的意味と力学を考察した。
Pol.is (※4)「ウォール街を占拠せよ」「アラブの春」といった運動をきっかけにシビックテックによってつくられた多数の人々の意見や感情を収集し、リアルタイムに分析するシステム。高度な統計学と機械学習を利用し、共通の意見や対立した意見を明確にし、その全体像を可視化。集められた意見を理解しやすくすることを目的としている(https://pol.is)。


