経済・社会

2025.06.24 10:15

建築家が挑む森林資産化のエコシステム

佐野文彦氏

300年の先を見据えて──文化資本としての森林と、新たなラグジュアリーの創造

現在、佐野氏は「IBM BlueHub プログラム in Kyoto」への参加を通じて、森林資源を資産化する新たなビジネスモデルの構築に取り組んでいる。その中で見えてきたのは、既存の信託制度にとらわれない、より柔軟かつ深く関与する資金提供モデルの可能性だ。

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「ファミリーオフィスや超富裕層など、一本釣りのような形で資金を託すような仕組みの方が、むしろこの構想には合っているかもしれません」

その根底にあるのは、森林への関与を「社会貢献」や「CSR」ではなく、ステータスや世界観の表明として捉える価値観の創造だ。

「木を育てること自体が『かっこいい』という価値観をつくりたい。森林に関わっていることが、未来の新しいラグジュアリーになる。これは、新しい文化の提案でもあります」

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こうした超長期的なプロジェクトにおいて、佐野氏が注目しているのが神社・寺院との連携だ。宗教的・文化的施設は数百年単位のスパンで建築を維持・更新していくため、森林資源との親和性が高いという。

「神社や寺は、数百年単位で存在し続ける稀有な存在です。伊勢神宮では、20年に一度の式年遷宮のために約1万5,000本のヒノキを自ら育てています。毎回同じ建物を建てるという行為そのものが、森林を『計画的に育てる理由』になる。このモデルは、まさに私たちが目指すスキームのリファレンスです」

一方で、300年という長期プロジェクトにおいては、組織や個人の継続性という課題が避けられない。そこに対しては、テクノロジーの力も視野に入れる。

「300年後まで『志』を継いでくれる保証はどこにもない。でも、ブロックチェーンのように情報が改ざんされず継続的に記録される仕組みがあれば、プロセスの透明性と信頼性は担保できる。テクノロジーが文化を支えるインフラになる可能性は大いにあると思います」

佐野氏の構想は、国内にとどまらない。むしろ、日本文化に深い関心を寄せる海外の超富裕層こそ、共鳴する可能性が高いと語る。

「たとえば、自分が京都の景観や、何百年後も存在し続ける神社の維持に貢献している、という意識は、海外の富裕層にとっては非常に共感を呼ぶものだと思います。自分の死後にも続く価値に資金を投じる感覚は、日本人以上に自然に持っているのかもしれません」

佐野文彦氏の構想は、既存の林業の収益モデルを超え、数百年という時間軸で木材を「文化資本」として再定義し、その価値を支える金融、テクノロジー、人材の生態系を同時に設計するという、極めて野心的かつ詩的な経済構想である。

「木という存在は、家であり、文化であり、表現であり続けるもの。永遠ではないけれど、自分が死ぬときにもまだそこにあって、ずっと前からそこにあったもの。そんな、自分よりも長く生きる価値を、社会の中に残していきたいと考えています」

森は、植えてすぐに利益を生むわけではない。しかし、時間とともにその価値は積み上がり、次世代の文化や社会の基盤を形づくる。だからこそ、誰かが最初の一本を、信じて植える必要がある。

あなたは、自分の死後にも残る価値に、時間やお金、想像力を投じる覚悟があるだろうか?
森をつくるという行為は、未来を信じるということだ。私たち一人ひとりの行動が、300年後500年後の文化の風景を決めていく。

伊勢神宮の遷宮の木を切り倒している。新たな御神木が、使命を授かる瞬間だ
伊勢神宮の遷宮の木を切り倒している。新たな御神木が、使命を授かる瞬間だ

文=西村真里子

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