佐野氏は、日本の山林が今、静かに「機能停止」しつつあると続ける。
「林業関係者と話していても、『山に生えている木は悪い木しかない』という前提で会話が始まります。山が長年放置され、質の低い木が増えた結果、『売れればなんでもいい』という空気が生まれている。2×4(ツーバイフォー)の材だろうがバイオマスだろうがチップだろうが、大量に買ってくれるならそれでいい、という具合に。まるで、在庫をさばくためだけに営業している“在庫一掃セール中の業界”のようです」
佐野氏は、林野庁が推進する「早生樹(そうせいじゅ)」政策に対しても一石を投じる。これは、再造林の低コスト化や木材資源の早期確保を目的に、ユーカリやセンダン、コウヨウザン、チャンモドキなどの成長の早い樹種の植栽を奨励するもので、短期的な収穫と循環利用を前提としている。
「成長が早い樹木を二酸化炭素吸収率もいいとされる若木の10〜15年で伐採し、バイオマスや製紙原料に使うというサイクルが合理的だという考え方は理解できます。ただ、数十年かけて育てた木が、最終的に 『燃料であったり、紙であったり、二酸化炭素固定であったり、、木の姿を失い、木が原料であることにしか価値がない』運命ばかりだとしたら、あまりに刹那的ではないでしょうか。数十年という人間にとってはかなり長い時間をかけて育成された木が多様な樹種を持つ山が、単一の早生樹で均されてしまう未来を、私は望んでいません。日本の山をどう未来につなげていくか、今こそ問い直す時期ではないでしょうか」
林野庁は、多様な森林整備手法の一つとして早生樹の導入を進めているが、佐野氏が警鐘を鳴らすのは、こうした施策が経済合理性に偏りすぎた結果、森林の生態系・文化的価値・長期的経済性といった多面的価値が見失われてしまうことだ。ユーカリの木が整然と植えられた山の風景を、果たして私たちは『日本の里山』として受け入れられるのだろうか。佐野氏の問いかけを聞きながら、私たちが有する日本の原風景が失われる悲しみも込み上げてくる。
「本当に価値のある木材を育てるには200年かかる。でも、そんな長い時間、誰かがコストを負担し続けられる仕組みがなければ、誰も挑戦しなくなる」
この「時間」と「経済」のミスマッチこそが、佐野氏が「森林資産」スキーム構築に踏み出した理由である。


