遠のく月と火星
今回の事故を受けてマスク氏は「Just a scratch(単なるかすり傷だ)」とポストしたが、今後のスターシップの計画に多大な影響を与えそうだ。スターシップとスーパーヘビーを統合した飛行テスト(Integrated Flight Test、IFT)は2023年4月以降、計9回行われてきた。しかし、スターシップのバージョンがV1からV2に変わった7回目の飛行テスト以降、予定された試験行程が完結されない状況が続いている。
V2の初飛行となった第7回テスト(2025年1月)では、スーパーヘビーの切り離しから数分後にスターシップが爆発。第8回(3月7日)では弾道飛行中に通信が途絶。9回(5月28日)では燃料漏れが発生して制御不能に陥り、大気圏再突入時に機体が崩壊した。そして今回の事故では機体だけでなく地上インフラも破壊されている。マスク氏は5月末、「3週間に1機のスターシップを打ち上げる」と語ったが、この状態では当面そのペースでのテストは不可能だ。
第9回の飛行テストの直後、マスク氏は火星探査計画を公表した。その計画では2026年に無人のスターシップを打ち上げて火星に着陸させ、2028年から29年にかけてはヒトを火星に送り込む可能性があるという。また、これと並行して2027年にはアルテミス計画の一環として、ヒトを月面まで送迎する契約をNASAと結んでいる。
これらのミッションを実施するにはスターシップV2を早期に軌道に乗せると同時に、タンカー(燃料補給機)とHLS(月面着陸機)という仕様違いのスターシップを開発する必要がある。失敗を重ねることで豊富なデータを取得し、短期間での目的達成を得意とするスペースXだが、今回の事故によってこれらの計画が停滞し、現状からさらに遅延することは必至だと思われる。


