COPVとは「Composite Over-wrapped Pressure Vessel」の略称で、「複合材巻き付け圧力容器」と訳される。これはカーボンファイバーなどの複合材を金属製の内筒に巻き付けた圧力容器のことで、軽量で耐久性が高いという特長を持つ。つまり窒素COPVとは、気体の窒素が高圧充填された容器を意味する。
マスク氏によれば、この窒素COPVが「保証圧力」以下だったにも関わらず破裂したという。保証圧力(proof pressure)とは試験圧力とも呼ばれ、安全が保証された圧力を意味する。マスク氏は「これが事実だとすれば、スターシップでは初めてのことだ」ともコメントしている。
窒素の使用目的は?
スターシップの構造の詳細は公表されておらず、また、飛行テストのたびに1000カ所以上の改良が施されるとのことなので、事故機の窒素COPVがどの位置に何基搭載されていたかは不明だか、過去の船内映像などから推察すると下図のように予想される。
機体内部の60%程度は、燃料と酸化剤が入ったメインタンクが占めている。これらの推進剤はスーパーヘビーが切り離されてから燃焼を始め、予定軌道に入るころにはほぼ空になる。また、機首部分にはヘッダータンクがあり、こちらの推進剤は軌道上でエンジンを再始動する際や着陸の際に使用される。小さなタンクが使用されるのは推進剤の浮遊を抑えるためで、これによって無重力環境下や機体姿勢が大きく偏向した際にも確実にエンジンに推進剤が供給される。
一般的なロケットには推進剤のほかに窒素やヘリウムが搭載されるが、その用途のひとつは推進剤タンクの圧力保持だ。エンジンが燃焼を始めると、メインタンク内の液化メタンと液体酸素は刻々と減少し、タンク内に空間が生まれる。クルマや飛行機であればそこに外気を呼び込めるが、宇宙には外気がない。そのため窒素やヘリウムをそれぞれのメインタンクに充填し、その圧力を一定に保つことで負圧の発生を回避する。もし負圧が発生すれば推進剤がタンクに引き戻されてエンジンに供給できなくなる。窒素やヘリウムが使用されるのはそれが不活性ガスであり、燃料や酸化剤に反応しないからだ。ただし、スターシップの場合、エンジンから出た燃焼済みのガスによって自動的にタンクを加圧している。そのためタンクの加圧に窒素が使用されるのはエンジンの停止時に限られる。


